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第 60 話:王国の夜明け
技術指導所の卒業生たちが、各地の現場でリーダーとなり、灌漑計画は驚くべき速度で進んでいった。
そして、計画開始から一年後。
王都の南に広がる、最も干ばつの被害が深刻だった穀倉地帯に、ついに最初の大規模用水路が完成した。
国王や貴族たち、そして何千という民衆が見守る中、大河から引き込まれた水門が、ゆっくりと開かれる。
ゴゴゴゴ……という音と共に、乾ききった水路を、生命の源である水が、勢いよく流れ始めた。
ひび割れた大地が、水を吸い込み、潤っていく。
「水だ……! 水が来たぞ!」
誰かの叫びをきっかけに、地鳴りのような大歓声が巻き起こった。人々は泣き、笑い、抱き合い、何十年ぶりかに見る豊かな水の流れに、ただただ感謝の祈りを捧げていた。
その光景を、俺は少し離れた丘の上から、静かに眺めていた。
俺の隣には、いつの間にか国王が立っていた。
「ベルクナー卿。そなたは、この国を救った。歴史に名を残す、真の英雄だ」
だが、俺は静かに首を振った。俺は英雄などではない。ただ、自分の知識で、目の前の問題を解決しただけだ。
用水路に映る朝日に照らされ、王国の新たな夜明けが、始まろうとしていた。




