第 57 話:王国灌漑計画
王の命を受けた俺は、数日間、王城の書庫に籠もり、王国全土の古い地図や河川の資料を読み漁った。そして、一つの壮大な計画を練り上げた。
「――王国灌漑計画」
王と大貴族たちが集まる議会で、俺が提示した計画の骨子は、こうだ。
「王国の中央を流れる大河から、網の目のように用水路を引き、国土の隅々まで水を供給します。さらに、各地にダムを建設し、貯水することで、将来の干ばつにも備える。これが、この国を恒久的に水不足から解放する、唯一の道です」
俺の計画に、国王は目を輝かせた。だが、大貴族たちの反応は、冷ややかだった。
「馬鹿なことを! 用水路を引くなどと、簡単に言うが、その水路が我が領地を横切るというのか!」
「ダムの建設地は、我が一族が代々受け継いできた土地だ。それを差し出せと申すか!」
議会は、貴族たちの利己的な反対意見で紛糾した。彼らにとって、国全体の利益よりも、自らの領地の、ほんのわずかな土地の方が重要らしかった。
「静まれ!」
国王の一喝で、場は静まり返る。
「ベルクナー卿に、この計画の全権を委ねる。異論は認めん。これは、王命である!」
国王の鶴の一声で、計画は承認された。だが、貴族たちの俺を見る目には、あからさまな敵意と嫉妬が渦巻いていた。
彼らは、表立っては逆らえないだろう。だが、水面下で、ありとあらゆる妨害工作を仕掛けてくるに違いない。
俺の前には、自然の脅威よりも厄介な、巨大な「政治」の壁が、音もなく立ちはだかっていた。




