第 53 話:断たれた生命線
品質認証制度は、すぐに効果を上げた。麓の町のギルドは「刻印なきは偽物」という情報を徹底的に流し、模倣品は市場から駆逐されていった。
だが、見えざる敵は、すぐさま次の手を打ってきた。
「クラウス様、大変です! 麓の町から、塩を積んだ荷馬車が来ません!」
村人の報告に、俺は最悪の事態を予感した。
塩。それは、人間の生命維持に不可欠なだけでなく、食品の保存や、革なめしなど、領地のあらゆる産業の根幹を支える重要な物資だ。山に囲まれたアイゼンヴァルトでは、生産することができない。
すぐにリーゼが情報を集め、絶望的な事実が判明した。
「王都の大商人ギルドが……我々アイゼンヴァルト領への、塩の全面的な禁輸を決定した、とのことです。我々の認証制度に対抗し、旧来のギルドに加盟しない者には、塩を売らない、と……」
経済封鎖。それも、最も効果的で、最も残酷なやり方だった。
領内の塩の備蓄は、もって一月。その報は、あっという間に領民たちの間に広がり、深刻な動揺と不安を生んだ。
「塩がなくなるだと……?」
「これから冬だというのに、どうやって肉を保存すればいいんだ……」
俺たちの喉元に、冷たい刃が突きつけられる。
これは、領地の存亡そのものを賭けた、あまりにも厳しい戦いだった。




