第 51 話:偽りの刻印
建領祭の成功は、アイゼンヴァルトの名を王国中に轟かせた。だが、光が強まれば、影もまた濃くなる。
祭りの数週間後、麓の町から、契約を結んでいるギルド長が血相を変えてやってきた。
「ベルクナー卿、一大事です! 市場に、我がギルド以外が卸した『アイゼンヴァルト鋼』を名乗るナイフが出回っております!」
彼が持ってきたそのナイフは、一見すると俺たちの製品によく似ていた。だが、手に取ればすぐにわかる。重さも、刃の輝きも、重心も、すべてが違う。ただのなまくらを、それっぽく見せかけただけの粗悪な模倣品だ。
「すでに被害が出ております。『アイゼンヴァルト鋼は、噂ほどの切れ味ではない』と……。このままでは、我々が築き上げてきた信用が、根底から覆されますぞ!」
ギルド長は、顔を真っ赤にして訴える。
俺は、その偽りのナイフを静かに見つめていた。これは、単なる小遣い稼ぎの模倣ではない。俺たちのブランド価値を意図的に毀損し、市場から締め出そうとする、明確な敵意を持った攻撃だ。
おそらくは、建領祭で俺たちの技術を目の当たりにした、旧来の利権を持つ大商人か、あるいは隣国の同業者か。
「……始まったか」
俺は、小さく呟いた。
これは、騎士団を動員するような、目に見える戦争ではない。
信用を、情報を、そして金を巡る、もっと厄介で、もっと冷徹な「見えざる戦争」の始まりだった。




