第 42 話:神の恵み
俺が目をつけたのは、アイゼンヴァルトの山々に自生する、野生のベリーやブドウ、そして山からこんこんと湧き出る清らかな水だった。
「醸造所を作る」
会議でそう提案すると、職人たちはまたしても不思議そうな顔をした。
「じょうぞうじょ? 酒を作るってことですかい?」
「ああ。だが、君たちが知っているような、酸っぱいだけのどぶろくじゃない。もっと香り高くて、美味しいエールを作るんだ。仕事の後に、皆で乾杯できるような、そんな一杯をな」
さらに俺は、もう一枚の設計図を広げた。それは、ガラス製のフラスコや冷却管が複雑に絡み合った、奇妙な装置の絵だった。
「そして、これが『蒸留器』だ。これを使えば、エールから、もっとアルコール度数の高い、強い酒を作ることができる」
俺は、職人たちの顔を見渡して言った。
「だが、俺が本当に作りたいのは、酒だけじゃない。この装置は、不純物を取り除き、純粋なものだけを抽出することができる。つまり、命を救う『薬』をも生み出せるんだ」
強い酒と、命を救う薬。
一見、相反するように見える二つの目標。だが、その根底にある技術は同じ、「蒸留」という科学だ。
職人たちの目に、新たな好奇心の光が灯る。
神が与えてくれた山の恵みを、俺たちの知恵で、人々の喜びと健康に変える。その挑戦が、今、始まろうとしていた。




