第 40 話:印刷という革命
安価で大量に生産できる紙の登場は、すぐに次の革命の引き金となった。
「クラウス様、この紙があれば、もっとすごいことができるんじゃねえですかい?」
そう提案してきたのは、意外にも宝飾職人だった。彼は、俺が認証印を作らせた時に、木版の技術を習得していたのだ。
「印刷、か。面白い」
俺たちは、早速簡単な木版印刷機の開発に取り掛かった。硬い木の板に文字を左右反転で彫り込み、インクを塗って、紙を押し当てる。単純な仕組みだが、これにより、同じ内容の書物を、何百枚、何千枚と複製することが可能になる。
最初の出版物として俺が選んだのは、「農作業の暦」だった。
種まきや収穫の最適な時期、天候の予測、簡単な土壌改良の方法などを、挿絵付きで分かりやすく解説したものだ。アカデミーの子供たちが、まだ文字の読めない親たちのために、それを読み聞かせて回った。
「なるほど、次の満月の頃に種をまけばいいのか!」
「この絵の通りにやれば、うちの畑ももっと良くなるかもしれねえ!」
領民たちは、生まれて初めて、「文字に書かれた情報」という強力な武器を手にしたのだ。
それは、これまで領主や聖職者といった、ごく一部の人間によって独占されていた「知識」が、解放された瞬間だった。
アイゼンヴァルトに、文化の夜明けが訪れる。
そして、この小さな領地で始まった静かなる革命が、やがて王国全体の歴史を大きく揺り動かすことになるのを、まだ誰も知らなかった。




