第 39 話:最初の白紙
どろりとした木材パルプを、今度は大きな水槽へと移す。そこに、簀の子のような木枠を沈め、慎重に引き上げていく。木枠の上には、水分を含んだ白い膜が、薄く均一に残った。
これを、フェルトの布の上に伏せ、水分を吸い取り、さらに一枚一枚丁寧に重ねて圧力をかけて脱水する。最後に、温められた金属板の上で乾燥させれば、完成だ。
そして、ついに。
俺たちの目の前に、一枚の「紙」が姿を現した。
「……これが、紙……」
リーゼが、震える手でその一枚を受け取る。
表面は少しざらついており、色も完全な白ではない。最高級の羊皮紙と比べれば、その品質は見劣りするだろう。
だが、文字を書くには十分すぎるほどの品質だった。そして何より、その製造コストは、羊皮紙の十分の一以下に抑えられている。
「……計算します」
リーゼはそう呟くと、執務室へ駆け戻っていった。彼女の背中が、これまでにないほど興奮しているのがわかった。
しばらくして戻ってきた彼女は、上気した顔で俺に報告した。
「クラウス様! この紙があれば、アカデミーの生徒全員に、毎日十枚の練習用紙を配っても、まだお釣りが来ます! 教科書も、報告書も、すべてこの紙に置き換えれば、領地の財政は劇的に改善されます!」
彼女の指が、喜びで微かに震えている。
これは、単なるコスト削減ではない。
これまで一部の特権階級に独占されていた「知識」という財産を、すべての領民に解放するための、革命的な発明だった。




