第 38 話:水車の歌
川沿いの開けた土地に、新たな工場、製紙所の建設が始まった。
プロジェクトの中心となったのは、巨大な水車だった。石工たちが頑丈な基礎を作り、大工たちが寸分違わぬ精度で巨大な車輪を組み上げていく。
そして、水車に連結されたのは、樫の木で作られた巨大な槌が何本も並ぶ「スタンプミル」だ。水車の回転が、この槌を交互に持ち上げ、そして振り下ろす。その下には、水で満たされた石臼が設置されており、細かく砕かれた木材チップが投入される仕組みだ。
数週間後、ついに製紙所は完成した。
川の流れを水路から引き込み、水車へと導く。ゆっくりと、巨大な水車が軋みながら回転を始めた。
ガッコン、ガッコン、と。
スタンプミルの槌が、力強く石臼の中の木材チップを叩き始める。それは、大地を揺るがすような、力強い鼓動だった。
石臼の中では、木材チップが水と混ざり合いながら、徐々に繊維状に解きほぐされていく。どろりとした、白い粥のような液体。木材パルプの誕生だ。
「すげえ……本当に木が、綿みてえになっちまった……」
職人の一人が、呆然と呟く。
川の流れを動力に変え、木という固体を、紙という平面に変える。
それは、自然の力を利用した、壮大な錬金術。
森に響き渡る水車の歌は、アイゼンヴァルトの新たな産業の産声を、高らかに告げていた。




