第 37 話:木からの挑戦
俺は早速、職人たちを集め、木から紙を作る計画を打ち明けた。
「木から……紙を、ですかい?」
ゲルトが、まるで理解できないといった顔で聞き返す。他の職人たちも、ざわついていた。
「この世界の紙は、古い布の屑から作られている。だが、原料が限られるから高価だ。しかし、俺の故郷の知識では、木材の繊維を細かく砕いて水に溶かし、それを薄く漉くことで、紙を作ることができる」
俺が説明したのは、「木材パルプ」の概念だった。
「馬鹿な! 木は木だ。あんな硬いものが、どうやったら紙になるんだ」
誰かがそう言うと、同調する声が上がる。耐火煉瓦やガラスの時とは違い、今回は彼らの想像の範疇を完全に超えてしまっているようだった。
無理もない。これは、既存の技術の応用ではない。全く新しい、ゼロからの挑戦だ。
俺は、反対する彼らを前に、一枚の羊皮紙を広げた。そこに描かれているのは、巨大な水車と、それに連動して動く巨大な槌の設計図だった。
「この『スタンプミル』で木材を叩き潰し、繊維を取り出す。動力は、領内を流れる川の水力を使う。人手はほとんどかからない」
俺は、職人たちの目を見て、力強く言った。
「道を作った時も、高炉を作った時も、最初は誰もが不可能だと言った。だが、俺たちはやり遂げた。今回も同じだ。俺は、君たちの腕を信じている」
俺の言葉に、職人たちの顔に、いつか見たのと同じ、挑戦者の光が宿り始める。
「……へっ、若様がそこまで言うなら、付き合ってやるのが俺たちの仕事ってもんだ」
ゲルトがニヤリと笑うと、他の者たちも覚悟を決めたように頷いた。
アイゼンヴァルトの、新たな挑戦が始まった。




