第 36 話:羊皮紙の壁
眼鏡の登場は、領地の知識労働の生産性を飛躍的に向上させた。リーゼの帳簿作業は効率化し、職人たちはより精密な作業が可能になった。アカデミーの子供たちも、夜遅くまで熱心に勉学に励むようになった。
だが、皮肉なことに、その成功が新たな問題を生み出すことになる。
「クラウス様、ご相談が……」
ある日の会議で、リーゼが深刻な顔で切り出した。彼女が示した帳簿の一項目を見て、俺は眉をひそめた。
「羊皮紙の購入費が、ここまで跳ね上がっているのか……」
アカデミーでの需要増大、そして各部門からの報告書が紙ベースになったことで、高価な羊皮紙の消費量が、領地の財政を圧迫し始めていたのだ。
「はい。このままでは、アカデミーの生徒数を制限するか、教科書を減らすしかありません。せっかく子供たちの学ぶ意欲が高まっているのに……」
リーゼが、悔しそうに唇を噛む。
知識の普及は、領地の未来の礎だ。それを、コストの問題で諦めるわけにはいかない。
俺は、かつて訪れた禿げ山と、その後に始めた植林計画を思い出していた。俺たちの領地には、有り余るほどの木材資源がある。
「……リーゼ。なければ、作ればいい」
「え?」
「羊皮紙に代わる、もっと安価な筆記媒体を、俺たちの手で生み出すんだ。このアイゼンヴァルトに無尽蔵にある、木を使ってな」
俺の言葉に、リーゼは驚いたように目を見開いた。




