第 35 話:君にだけ見える世界
板ガラスの製造も安定し、領内の主要な建物には、次々とガラス窓が取り付けられていった。
そして、俺はついに、この改革の最終目標に取り掛かった。レンズの開発だ。
高純度のガラスの塊を作り、それを根気よく磨き上げて、正確な曲面を作り出す。それは、これまでのどの作業よりも、繊細で、精密な技術を要求された。
俺は、手先の器用な宝飾職人をスカウトし、彼と共に、来る日も来る日もガラスを磨き続けた。失敗の連続。だが、俺は諦めなかった。俺の頭の中には、リーゼの疲れた横顔が、ずっと焼き付いていたからだ。
そして、数ヶ月後。
ついに、二枚の凸レンズを、簡単な木のフレームにはめ込んだ、最初の「眼鏡」が完成した。
俺は、そのささやかな試作品を手に、執務室で待つリーゼの元へ向かった。
「リーゼ。少し、これをかけてみてくれないか」
「これは……? ガラスの飾りのようなものですの?」
彼女は不思議そうな顔で、俺から眼鏡を受け取ると、恐る恐るそれを顔にかけた。
次の瞬間。
彼女は、息を呑んだ。
「……あ……」
彼女の目に、今までぼんやりと霞んで見えていた世界が、くっきりと、鮮明な輪郭を取り戻して映し出される。机の上のインクの染み、帳簿に書かれた小さな数字、そして、心配そうに自分を見つめる俺の顔。そのすべてが、信じられないほどはっきりと見えた。
「……見えます。クラウス様。あなたの顔が、はっきりと……」
彼女の大きな瞳から、一筋の涙が、完成したばかりのレンズを濡らして、静かにこぼれ落ちた。




