第 33 話:最初の雫
新しいガラス窯の建設と、試行錯誤の日々が始まった。
耐火煉瓦作りの経験があったため、窯自体はすぐに完成した。問題は、原料の配合と、温度管理だった。珪砂と木灰の比率を少しでも間違えたり、温度が高すぎたり低すぎたりすると、ガラスは濁ったり、気泡だらけになったりしてしまう。
失敗作の、歪なガラスの塊が、窯の横にいくつも転がっていく。
「くそっ、まただめか!」
ゲルトが悔しそうに声を上げる。彼は、製鉄の合間を縫って、この新しい挑戦に誰よりも熱心に取り組んでくれていた。
そして、数十回目かの挑戦。俺は、原料に砕いた石灰石を少量混ぜる、という前世の知識を試してみた。
窯の中で赤熱した坩堝から、職人が慎重に竿を差し入れ、溶けたガラスを巻き取っていく。
「……おおっ!」
今度こそ、竿の先に絡みついたのは、これまでとは明らかに違う、透明な水飴のような塊だった。不格好だが、確かに光を通している。
俺たちは、まずそのガラスで、簡単な瓶を作ることから始めた。最初は歪な形しか作れなかったが、練習を重ねるうちに、次第に均一な厚さの、実用的なガラス瓶が作れるようになっていった。
完成した最初のガラス瓶は、すぐに主婦たちの間で評判になった。
「すごいわ、これ! 山で採れたベリーでジャムを作って入れておけば、冬でも食べられるじゃない!」
「うちでは、野菜を酢漬けにしてみたの。中身が見えるから、腐る心配もなくて安心だわ」
ガラス瓶は、領地の食料保存技術を飛躍的に向上させた。それは、アイゼンヴァルトの厳しい冬の食卓を、確実に豊かにする、小さくも偉大な一歩だった。




