第 29 話:権限の委譲
学校の設立と並行して、俺はもう一つの大きな改革に着手していた。組織改革、つまり「権限の委譲」だ。
俺は、各現場の責任者である、鍛冶屋のゲルト、炭焼きのバラン、鉱山技師のロルフ、そして石工の親方を執務室に集めた。
「今日から、君たちを各部門の『部長』に任命する」
「ぶちょー……?」
聞き慣れない言葉に、親方たちが顔を見合わせる。
「ああ。今後は、各現場の運営は、君たちに一任する。資材の発注から、人員の管理、そして一定額までの予算執行の権限も与えよう」
俺の言葉に、今度は驚きの声が上がった。これまでは、どんな些細なことでも、俺かリーゼの決裁が必要だったのだ。
「そ、そんな大それたこと、俺たちにできるわけが……」
弱音を吐くゲルトに、俺は力強く言った。
「できるさ。君たちは、誰よりも現場を知るプロフェッショナルだ。俺がやるより、君たちが判断した方が、ずっと良い結果が出せるはずだ」
さらに俺は、月に一度、「定例報告会議」を開くことを決めた。各部長が、それぞれの部門の進捗と課題を報告し、全員で解決策を議論する場だ。
最初の会議は、ぎこちないものだった。だが、回を重ねるごとに、彼らは自らの言葉で意見を述べ、他の部門と連携し、問題を解決していくようになった。
領地の運営は、俺とリーゼからのトップダウンではなく、現場からのボトムアップへと、その形をゆっくりと変えていく。
それは、このアイゼンヴァルト領に、近代的な「組織」と「自治」の芽が生まれた瞬間だった。




