第 28 話:小さな教室
学校は、村の広場の隅にあった、古い納屋を改装して作られた。
最初は、子供たちを送り出すことに抵抗があった親たちも、俺とリーゼの粘り強い説得と、「授業が終われば家の手伝いをさせる」という約束のもと、しぶしぶ子供たちを送り出してきた。
教壇に立つのは、少し緊張した面持ちのリーゼ。生徒は、十歳前後の子供たちが十数人。黒く塗った木の板が黒板で、石灰石がチョーク代わりだ。
「それでは、授業を始めます。これは、『あ』と読みます。皆さんも、書いてみましょう」
リーゼは、戸惑う子供たち一人ひとりに、根気強く文字の形と音を教えていく。
最初は、落ち着きなく騒いでいた子供たちも、次第に新しいことを知る喜びに目覚めていった。自分の名前が書けるようになった時の、はにかんだような笑顔。簡単な足し算ができた時の、誇らしげな顔。
子供たちの瞳は、日に日に知的好奇心で輝きを増していった。
そんな子供たちの姿は、親たちの考えも少しずつ変えていく。
「うちの小僧が、自分の名前を書いて見せてくれたんだ。驚いたぜ」
「うちの娘は、買い物のお釣りを間違えなくなった。大したもんだ」
そんな声が、村のあちこちで聞かれるようになった。
やがて、納屋の教室は、子供たちの熱気で手狭になっていった。
学校は、もはや不要な贅沢品ではない。
この領地の未来を育む、希望の苗床として、人々の心に確かに根付き始めたのだった。




