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第 26 話:見えざる危機
領地は豊かになり、安定した。中央からの圧力も、近隣領主の妨害も、俺たちが築いた同盟と経済力の前には沈黙した。
執務室の窓から見える領地は、活気に満ち溢れている。スローライフ、というにはまだ少し忙しいが、それでも充実した日々だった。
だが、俺の心は晴れなかった。
ある夜、リーゼが帳簿作業の途中で、うたた寝をしているのを見た。疲れ切ったその寝顔に、俺は胸を締め付けられるような危機感を覚えた。
今のアイゼンヴァルトは、俺の知識と、リーゼの事務処理能力という、あまりにも属人的な二本の柱で成り立っている。もし、俺かリーゼが病に倒れでもしたら? この奇跡のような繁栄は、あっという間に崩れ去ってしまうだろう。
それは、高炉の火が消えることよりも、交易路が断たれることよりも、ずっと恐ろしいことだった。
「……これでは、駄目だ」
俺は静かに呟いた。
俺が目指すべきは、俺がいなくても回る組織。俺が死んだ後も、この豊かさが続いていく「システム」そのものを作ること。
それは、これまでで最も困難で、そして最も重要な仕事になるだろう。
俺は、眠るリーゼの肩にそっと毛布をかけながら、新たな、そして最後の改革を決意した。
未来への、種まきを。




