第 22 話:紙の盾
バルツの提示した法外な税率に、執務室の空気は凍り付いた。リーゼは唇を噛みしめ、悔しさに俯いている。
だが、俺は動じなかった。むしろ、この時が来ることを予測していた。
「バルツ殿。その税率の根拠を、お示しいただけますかな?」
俺が静かに尋ねると、バルツは鼻で笑った。
「根拠だと? 我々がそう決めたからだ。それ以上でも、それ以下でもない」
「なるほど。では、こちらからも一つ、ご確認いただきたい資料があります」
俺はリーゼに目配せした。彼女は、覚悟を決めた顔で頷くと、執務室の隅に山と積まれていた、分厚い帳簿の束を、バルツの前に運び始めた。
ドン、ドン、と。重い音を立てて、テーブルの上に帳簿の山が築かれていく。
「こ、これは、何だね?」
バルツの顔から、余裕の笑みが消える。
「アイゼンヴァルト領の、過去一年間の全記録です」と、リーゼが凛とした声で言った。「高炉の建設費、人件費、資材費。道作りの際の食料配給記録。そして、麓の町との交易で得た利益と、その使い道。そのすべてが、ここにあります」
俺は、帳簿の山の一番上を指さした。
「ご覧の通り、我々の利益は、そのほとんどが領地の未来への再投資に回されています。あなたの提示する税率は、我々のささやかな利益を遥かに上回る。これは、もはや徴税ではなく、搾取です」
数字と記録。それは、何よりも雄弁な事実の塊。
バルツは、目の前にそびえ立つ「紙の盾」を前に、言葉を失っていた。
これは、力と力のぶつかり合いではない。知恵と、そして地道な記録の積み重ねが雌雄を決する、静かなる戦いだった。




