第 16 話:売れない宝
高炉がもたらしたアイゼンヴァルト鋼は、まさに奇跡だった。
ゲルトが作る農具は、驚くほど頑丈で、切れ味も長持ちする。領民たちは、その性能に目を見張ったが、すぐに新たな問題が浮上した。
「クラウス様……鍬一本、銀貨三枚は、さすがに……」
ハンス村長が、申し訳なさそうに頭を下げる。
高品質な鋼を作るには、それ相応の白炭と手間がかかる。当然、製品の値段も跳ね上がる。だが、日々の食事にも事欠く領民たちに、そんな高価な農具が買えるはずもなかった。
結果として、ゲルトの工房には、素晴らしい輝きを放つ農具やナイフが、売れないまま山積みになっていく。まさに、宝の持ち腐れだった。
「これでは、高炉を動かし続けるための費用すら賄えません」
執務室で、リーゼが厳しい顔で帳簿を指し示す。彼女の言う通り、このままではジリ貧だ。
「わかっている」俺は頷いた。「需要がない場所で物を売ろうとしても意味がない。俺たちの製品を、本当に評価してくれる場所で売る必要がある」
「と、言いますと?」
「麓の町だ。あそこには、豊かな商人も、腕利きの職人もいる。彼らなら、この鋼の価値を正しく理解してくれるはずだ」
俺は、工房に眠る「宝物」に目を向けた。
「ただの鉄製品としてではない。特別な価値を持つ『ブランド』として、このアイゼンヴァルト鋼を売り込むんだ」
俺はゲルトに、持てる技術のすべてを注ぎ込んだ、最高のナイフと鍬を一本ずつ作るよう命じた。
これが、俺たちの領地の未来を賭けた、市場への挑戦の始まりだった。




