第 13 話:土と炎の試行錯誤
リーゼの警告はもっともだった。だが、俺は引き下がるわけにはいかなかった。高炉なくして、アイゼンヴァルトの未来はない。
「リーゼ、頼む。失敗のリスクは俺が負う。だが、成功のためには君の力が必要だ。資材の管理を、君にしか頼めない」
俺の真剣な説得に、彼女は深いため息をつきながらも、最終的には頷いてくれた。こうして、領地の命運を賭けた「耐火煉瓦」の開発が始まった。
俺は前世の知識を頼りに、領内の土や石を片っ端から集めさせた。粘土質の土、川砂、白っぽい石英の塊。それらを様々な比率で混ぜ合わせ、形を整え、炭焼き小屋の隅に作った小さな試験炉で焼き固めていく。
だが、現実は甘くなかった。
「だめだ! またひび割れた!」
ゲルトが悔しそうに叫ぶ。焼きあがった煉瓦を白炭の炎で熱すると、ものの数分で無残な亀裂が入ってしまうのだ。
失敗、失敗、また失敗。
試作した煉瓦の残骸が、山のように積み上がっていく。それに比例して、リーゼが管理する資材と食料の備蓄は、目に見えて減っていった。
村人たちの間に、不安と不満の空気が広がり始める。
「若様は、また無茶なことを始めたらしい」
「道作りの時とは違う。今度は本当に領地が潰れるんじゃないか」
そんな声が、俺の耳にも届いていた。焦りが、胸を締め付ける。
もう後がない、三十回目の試作。俺は、これまでとは違う、ある特定の谷から採れる、粘り気の強い赤土の比率を極端に増やしてみた。そして、細かく砕いた石英を混ぜ込む。
焼きあがった煉瓦は、これまでとは明らかに違う、ずしりとした重みと密度を持っていた。
俺たちは固唾を飲んで、その煉瓦を炉の中へ入れた。青白い炎が、煉瓦を舐めるように包み込む。一分、五分、十分……。
「……ひび割れない」
誰かが、震える声で呟いた。
煉瓦は、炎の中で赤く輝きながらも、その形を保ち続けている。
「やった……やったぞ!」
ゲルトが雄叫びを上げた。俺も、思わず拳を強く握りしめる。
長いトンネルの先に、ようやく見えた一筋の光。逆転の光が、確かに見えた瞬間だった。




