第 11 話:錆びた夢
高品質な白炭の安定供給は、領地の産業に確かな変化をもたらした。
特にその恩恵を受けたのが、鍛冶屋の親方、ゲルトだ。彼は連日、工房に籠もり、青白く燃える炎と向き合っていた。
「クラウス様! 見てくだせえ! ついに、ついにまともな鋼が……!」
ある日、ゲルトが興奮した様子で執務室に駆け込んできた。彼が手にしていたのは、一本の小刀。鈍い銀色の輝きを放ち、これまでの鉄製品とは明らかに違う、精悍な空気をまとっている。
「素晴らしい出来だ、ゲルト」
俺が小刀を受け取って褒めると、ゲルトは子供のように顔を輝かせた。だが、その表情はすぐに曇る。
「……ですが、クラウス様。これ一本打つのに、丸一日かかっちまう。今のうちの炉じゃ、白炭の火力に耐えられねえんです。炉の壁はすぐにひび割れちまうし、一度に溶かせる鉄の量も知れてる。これじゃあ、農具を全部作り替えるなんて、夢のまた夢だ」
彼の言葉に、俺は工房の古い炉を思い出していた。土と石で固めただけの、原始的な炉。あれでは、白炭の生み出す超高温を制御しきれないのは当然だった。
ゲルトの顔に、ようやく掴みかけた夢が、錆びついていくような失望の色が浮かぶ。
俺は、彼の肩を力強く叩いた。
「夢で終わらせるものか」
俺はきっぱりと言い放った。
「ゲルト。炉が駄目なら、作り直せばいい。もっと大きく、もっと頑丈で、もっと効率のいい炉を、だ」
「も、もっと大きな炉、ですかい?」
「ああ。今までのものとは比べ物にならない、巨大な炉をな」
俺の頭の中には、すでに新たな設計図が浮かび上がっていた。前世の知識にある、近代製鉄の象徴。鉄鉱石と燃料を上から投入し、熱風を送り込んで、高品質な鉄を大量に生み出す怪物。
「高炉、という。俺たちの手で、この領地に鉄の巨人を作り上げるんだ」
俺の宣言に、ゲルトはただ、呆然と口を開けていた。




