第 10 話:森との約束
バランが弟子入りを志願して以来、領地の木炭品質は劇的に向上した。
彼は、俺が教えた白炭の製造法を、持ち前の職人技でさらに昇華させていった。窯の温度管理、木材の乾燥具合、火入れのタイミング。彼の長年の経験と俺の知識が融合し、アイゼンヴァルト産の白炭は、安定して高い品質を誇るようになった。
鍛冶屋の工房からは、連日、鋼を打つ小気味よい音が響いている。新しい炭のおかげで、ついに彼は念願の「鋼」を安定して作れるようになったのだ。領内の農具は、驚くほど頑丈で長持ちするものへと生まれ変わり、村人たちを喜ばせた。
一見、すべてが順調に進んでいるように見えた。だが、俺は新たな問題に気づいていた。
ある日、俺はリーゼを伴って、炭焼き小屋のさらに奥、山の高台へと足を運んだ。
「クラウス様、これは……」
眼下に広がる光景に、リーゼが息を呑む。
森の一部が、まるで巨大な獣に食い荒らされたかのように、無残な禿げ山と化していたのだ。炭焼きに使う木材を、無計画に伐採し続けた結果だった。
「このままでは、いずれ土砂崩れが起きて、麓の村が危険に晒される。それに、森がなくなれば、炭も作れなくなる。目先の利益のために、未来を食いつぶしているようなものだ」
俺の言葉に、リーゼは厳しい表情で頷いた。
執務室に戻った俺は、すぐに新しい布告を出した。
一つ、木を一本伐採した者は、代わりに苗木を二本植えること。
一つ、伐採してよい区域と、森を育てる区域を明確に分けること。
これは、前世で学んだ「持続可能な林業」の考え方そのものだった。
最初は「面倒だ」と不平を言っていた村人たちも、俺が土砂崩れの恐ろしさと、森がなくなることの危険性を粘り強く説いて回ると、次第に理解を示してくれた。
道を作り、炭の質を上げた。だが、それだけでは足りない。
この豊かな森を守り、育て、未来へと繋いでいく。
俺は、アイゼンヴァルトの森と、そしてまだ見ぬ未来の子供たちと、固い約束を交わしたのだった。




