第 9 話:砕かれた矜持
バランは、白く硬い炭を、まるで初めて見る宝石のように、何度も手のひらの上で転がしていた。彼の弟子たちも、遠巻きにその奇跡の結晶を眺めている。
「……だが、見た目だけじゃわからん。肝心なのは、火力がどうかなんだ」
バランは最後のプライドを振り絞るようにそう言うと、鍛冶屋の工房にある小さな炉へ向かった。俺もその後を追う。噂を聞きつけた鍛治屋の親方も、何事かと顔を出した。
バランは、炉の中に俺が作った白炭をいくつか放り込むと、慣れた手つきで火をつけた。
最初は、静かだった。だが、数分もすると、炉の様子が明らかに変わってきた。
「なっ……!」
鍛冶屋の親方が、驚愕の声を上げる。
炉の中の炎が、今まで見たこともないような、青白い光を放って燃え盛っているのだ。炉の周囲の空気が、陽炎のように揺らめいている。温度が、尋常ではないレベルに達している証拠だった。
バランは、震える手で火箸を握り、一本の鉄の棒を炉の中へ差し込んだ。
いつもなら、鉄が赤くなるまでにはかなりの時間がかかる。だが、今はどうだ。鉄の棒は、まるで飴細工のように、あっという間に真っ赤に、そして眩いオレンジ色へと変わっていく。
「……嘘だろ」
バランの口から、呆然とした呟きが漏れた。
彼の五十年という炭焼きとしての人生。親から受け継いだ伝統の技。そのすべてが、目の前の青白い炎によって、音を立てて砕け散っていく。
だが、その砕け散った矜持の欠片の中から、新たな炎が燃え上がるのを、俺は確かに見た。職人としての、純粋な探求心の炎が。
バランは、ゆっくりと俺の方へ向き直ると、その場に膝をつき、深く、深く頭を下げた。
「……旦那様。俺の負けだ。完敗だ」
その声は、悔しさではなく、むしろ喜びに打ち震えているように聞こえた。
「頼む! 俺に、その炭の作り方を教えてくだせぇ! この通りだ!」
頑固な職人が、長年のプライドを捨てて頭を下げた。それは、アイゼンヴァルトの産業が、新たな時代へと突入した瞬間だった。




