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僕が血を捧ぐ理由  作者: ヤスオ


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6/9

望まぬ来訪

数日後、この日の献血ルームはやや人が少ない。常連の高齢者がメインだ。採血を終えた男性を莉波が待合室まで送る。

「本日もありがとうございました。」

「いやいや、こちらこそ色々話できて楽しかったよ。あんた最近元気だな⁈」

「えっ、そうですか?」

「おうよ!ちょっと前に暗ーい顔することがあったのに今じゃ見る度楽しそうにしてるぜ?あれか!いい男でも見つけたか!」

「そんなんじゃないですよー。」

そんな話をしていると男性の奥様と思われる女性が男性を叱る。

「あんたそんなこと聞くんじゃないよ!デリカシーないわねー!」

「おっ?そうか?」

「そうだって、ごめんね莉波ちゃん。」

「いえいえ、いつもお話ありがとうございます。」

とても平和な会話。今日1日こうであってほしい。

だが現実は甘くない。

プラカードを掲げるスタッフ寒い中でも一切手を抜かずに大声で声をかける。

「血液はまだ人工的に作ることができません!皆さんのご協力をお願いいたします!本日は特にA型の400mが…」

声を遮るように1人の男が話かける。

「すんません。献血ルームってどこにあんの?」

声を遮られてもスタッフは笑顔を絶やさない。

「ありがとうございます。あちらの道をですね…」

「あーっ、看板みえたわ。あっちね。」

また親切な案内を遮りスタスタと歩いている。高津だ。

今度は別の年配女性と仲良さげに話す莉波。待合室に近くまで共に歩く。

「本日もありがとうございました。いつも助かっています。」

「こちらこそ、またよろしくね。」

そんな会話をしていると自動ドアが開き外の寒気が適温に保たれたルーム内を冷やす。それと同時に男が入ってきた。

「ありがとうございます。」

そう声をかける受付スタッフを無視して中に入った男は莉波をみるなりニヤリと笑う。

「おー、莉波じゃん。こんなとこにいたのか!」

さっきまで柔らかい表情をしていた莉波は一気に固まってしまった。血の気が引き、驚きで目が見開く。

「…!高津さん…」

女性は莉波の状態に気がついていない。そのまま気さくに話かけてしまう。

「あら、あなたこの子のお知り合い?」

「いやー、お知り合いっていうか…未来の旦那です。」

その一言で周囲は賑やかになる。莉波1人を除いて。

「ほー、あんたこの子の彼氏さんかい?」

「いいスーツ着てるわねー。なんの仕事してるの?」

褒められていい気分になる高津。意気揚々と質問に答えていく。

「あっ、これっすか?奥さんセンスいいねー。これ、オーダーメイドっす。仕事は高津製菓の営業っすね。」

「あらまぁ、大手じゃない。頑張ってるのね。」

「いやー、それほどでもないですよ。なっ、莉波?」

周囲の視線が全て莉波に注がれる。莉波は必死に声を絞りだす。

「なんで…ここに…」

莉波の様子など全くいに介していない高津はまたまた意気揚々と答える。

「あー、陸上部の後輩に聞いたんだよ。献血ルームで働いてるって。」

その一言に更に怯えたような表情をする莉波。

「そんな…」

莉波の異変に気がついた1人の看護師が間に入る。

「すみません、勤務中ですので…」

高津はすぐり切り返す。

「えっ、でもそろそろ休憩時間ですよね?」

「それはそうですが…」

「ならいいじゃん。ここで待たせてもらいますね。おい莉波、休憩時間一緒に飯食おうぜ!」

その提案に更に顔が青ざめる莉波。それでも再び声を絞り出す。

「いや、でも今日はお弁当…」

「そんなもん晩飯にすりゃいいだろ?奢るから行くぜ。」

その強引さは事情を知らない、察していない周囲の大多数には前向きに捉えられた。

「いや、熱いねー。」

「こりゃ年寄りはさっさと立ち去らんとな!」

数少ない状況を察している看護師は必死に莉波を守ろうとする。

「そんなの強引すぎます。この子も気持ちも考えて予定を…」

そんなフォローをあからさまにうざいと感じた高津は言葉を遮る。

「献血ルームってさぁ、従業員の休憩中の過ごし方勝手に決めるわけ?」

「そんなことは…」

「じゃあ、首突っ込まないでよ。こっちは奢るって言ってんだから。」

「でも…」

何かを言いそうになった看護師の腕を莉波が掴む。これ以上迷惑をかけられないという気遣いだろう。

休憩時間となり、商店街の外へ消えていく二つの影、その一つは今にも消えそうだった。

2人が訪れたのは如何にも高級そうな焼肉屋のランチタイム。ランチとはいえ店の佇まいから入っている客の品位は高い。莉波を連れている1人の男を除いて。

「ここ有名なんだぜ?こんなとこ来ねえだろ?」

「はい…まあ。」

「遠慮せずになんでも頼めよ〜。こうやって2人で飯にするのも久しぶりなんだからよ。」

大きな声、それはハツラツというよりも意地汚さの現れのように感じる。店員を呼び注文を済ませる高津。料理を待っている時間が恐ろしく長い。莉波はやや下を向きながら待っていた。その間も高津の話は止まらない。

「それでよー、兄貴が東京の店のコラボを次々決めちゃってよー。ヘルプで俺が来ることになったんだわ。面倒くせーって思ったけどお前がいるならいいかって思ってさー。」

「…そうなんですね。」

ようやく料理が運ばれてきた。店員が料理の説明を始める。

「こちらは料理長が自ら生産地を訪れ選りすぐった…」

「ごめん、あのさ。俺早く食べたいんだわ。そういう説明いいから。」

「…失礼いたしました。ごゆっくりお楽しみください。」

肉の質は素人でもわかるほど上質だ。本人に断りもなく莉波の分もまとめて網に入るだけ入れる高津。

高津は肉を雑に焼く。何度も意味もなくトングを使って肉をひっくり返す。やや赤い肉汁が出てるのにも関わらず自分と莉波のタレが注がれている小皿に肉を乗せていく。塩や柚子胡椒の小皿もあるというのに。

「タレが1番うまそうだよなー。」

そう言いながら一口食べる。

「いやっ、ウマ!肉超柔らかいぜ!お前も早く食えよ!」

言われるがまま肉を口へ運ぶ莉波。ほとんど味がしない。

「どうだ?うめぇだろ?」

「…はい。そうですね。」

ドンドン食べ進めていく高津。それに対してほとんど箸が進まない莉波。一緒にいるはずなのに時間軸が違うようだ。

早々に食べ終わり、莉波の完食を待つ。

「早く食えよ。休憩時間そんなねぇだろ?」

そう言われて無理にペースを上げる莉波。最後に水を飲んでなんとか完食した。

店からの帰り道。突然高津が驚きの発言をする。

「俺、献血してくわ。」

衝撃の言葉に声が出ない莉波。高津はそんなこと気にも留めていないようだ。地獄のような気分のまま歩く2人。莉波は高津の視界に入らないようにリズムを変えて少し後ろを歩く。

献血ルームについた。莉波は白衣に着替えて仕事に戻る。待合室には高津がいる。

「大丈夫?」

先ほど間に入ってくれた看護師が心配そうに声をかける。莉波は無理やり笑顔を作った。

「はい。ご心配おかけしました。」

待合室の高津は自身に染みついた焼肉の匂いなどあまり気にかけていないようだ。

「リストバンド23番の方検査へお越しください。」

そう言われて入ってくる高津。一つ一つの挙動が莉波には恐ろしくスローに感じる。

検査が終わりかけの頃に高津は担当看護師にとんでもないお願いをした。

「本番の献血さ、莉波にやらせてくんないっすか?」

衝撃発言だが、検査を担当した看護師はあまり状況を読めておらず、

「確認してまいります。しばらくお待ちください。」

そう言って莉波ではなく、ルーム内の看護師をとりまとめているリーダー格の看護師に相談に向かった。

少し話をしてからリーダー格の看護師が高津のもとへ

「申し訳ありません。そのような配慮は原則ありませんので…」

「えっ、そうなんすね。まあ、みんなそんな暇じゃねえか。」

素直に折れたと思った次の瞬間

「じゃあ、俺待ってますよ。莉波が採血担当できるまで。」

「えっ…」

莉波だけでなく周囲が凍りつく。流石に目の前にいる男の異質さに気がついたようだ。

「ですので、そのような配慮は…」

「えっ、なんで?俺待ってるって言ってるじゃないっすか。未来の奥さんに頼んで何が悪いんだよ。」

いちゃもんをつけてくる高津に困惑する看護師陣。もう莉波は耐えられなかった。

「わかりました。私の手が空いたらご案内しますからそれまでにお手洗いや水分補給を済ませておいてください。」

「ちょっ、十文字さん。」

「いいんです…」

無理をしているのは明白。それでも明らかな無理難題ではないから強く断ることもできない。

「よし!じゃあよろしくー。」

納得した様子で待合室へ立ち去る高津。自身の身勝手さに気がついていないようだ。検査の様子を遠くからしかみておらず、そんなことをあまり把握できていない他の利用者たちはとても楽しそうに高津に話かける。ますます莉波に逃げ場がなくなるのだった。

いよいよ高津の番が来た。莉波が採血室から呼ぶ。

「リストバンド23番の方どうぞ。」

高津はやっとか、そんな表情を見せながら採血室へ向かう。莉波が近くなると馴れ馴れしく話かける。

「そんな23番とかじゃなくてさぁ、高津さんとか浩二さんでいいんだぜ?」

「いや…それは」

ベッドに座る高津。莉波はさっさと終わらせようと血管を確認する。指先の感覚が鈍い。入念に確認をする莉波をみてニヤつく高津。

「おっ、いいねー。入念なチェックに見せかけてボディタッチか!照れるなー。」

「すみません、集中してますので。」

「はいはい、どうぞご自由に。」

確認が終わり針をかまえる莉波。いつもより針先が震えているように見える。

「ではいきます。」

針が高津の腕へ入っていく。高津の表情が歪む。

「って!」

その様子に莉波の血の気が引いた。

「すみません、大丈夫ですか?」

「お前下手くそだな。こんなに痛えもんなの?」

確かに少し痛かったかもしれない。それにしてもあんまりな態度だ。まして自分の未来の妻だという女性に。看護師たちの表情が暗くなる。

「お前、ここいろよな。俺の話し相手しろ。」

更に横柄な態度になる高津に逆らうことなどできはしない。莉波は言われるがままイスに座って話を聞く。

高津は400m献血。そこまで時間はかからないはずだが、異様に長く感じた。嫌な緊張が採血室全体を包む。

ピィー

ようやくアラームが鳴った。莉波が針を抜く。

「お疲れ様でした。」

ここでも指先の感覚が遠い。

「だから痛えって。ホントに仕事でやってんだよな?」

言われっぱなしだが逆らえない。

高津を待合室まで送り届けようとする莉波。すると高津が衝撃発言をする。

「おい、もうお前ここやめろ。」

衝撃の発言に莉波の表情は更に暗く凍てつく。お構いなしに高津は続ける。

「さっさと俺と結婚して家庭に入れ。」

「えっ…そんな…」

「あんな下手くそな採血しかできねぇならやる意味ないっしょ。今月か来月いっぱいでやめて徳島帰ってこい。」

あまりに傲慢な態度に看護師仲間が割って入る。

「やめてください。好きな女性を職場でそんな言い方するなんてあんまりです!」

高津は更に怒りのボルテージをあげて反撃する。

「外野が騒ぐなよ。そもそもこいつがさっさと嫁に来りゃ丸く収まるのに一向に首を縦に振らねえのが悪いんだよ。」

「…」

莉波は何も言い返せない。そんなの構わず高津は更にたたみかける。

「お前みたいな一般家庭の女が俺たちの一族の仲間入りできるんだ。こんないい話ねぇだろ?家事だけやってりゃ金が降ってくるんだ。楽だろうに下手な仕事だけして自己満に浸ってんじゃねえよ。」

莉波の目に涙が溢れそうになる。ここまで迷惑をかけてもうこの職場にはいられないかもしれない。そうすれば高津に従うしかない。諦めて彼に従おうと

「わかりました。」

そう言おうとしたその時

「すみません、飛び入りですけど大丈夫ですか?」

凪斗が受付に現れた。

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