束の間の…
数日後、何事もなかったかのように凪斗は莉波としゃぶしゃぶを楽しんでいた。
「このお肉めっちゃ美味しいですね!」
美味しそうに食べる凪斗をみて微笑む莉波
「フッ…よかった。ここ友だちから紹介されたとこだから。」
「そうなんですね!お友だち素敵なお店知ってますね!」
ずいぶん打ち解けた様子で会話が弾む。凪斗は自然と笑顔が多くなっていた。
「そろそろ〆にしますか?」
「そうね。雑炊にするのにキノコとか頼む?」
「あっ、それめっちゃ美味しそうです!ぜひやりましょう!」
店員を呼び止めて注文を終わらせ、更に話を進める。
「僕4月生まれなんですよ。」
「うん、知ってる。献血のデータにあるからね。」
「だからあと2、3ヶ月で一緒にお酒飲めますね。」
「それまで恋人のフリが続いていればだけどね。」
微笑んでいた莉波の表情に少し儚さが滲む。
「連絡あったんですか?その….高津さんって人から。」
凪斗は自身が高津にあったことは伝えていない。余計な混乱を避けるためだ。
「うん、時間のある日はいつだとか、仕事は何時ごろ終わるんだとかは毎日LINEくるよ。」
「やばいな…、それだけ執着してるなら何してくるかわかりませんね。」
「それがね…」
莉波は一呼吸おきいっそう気が滅入った様子が話だした。
「うちの両親がね…最近高津さんの両親と仲いいみたいなの。」
「えっ?本当かですか?」
「うん、高津くんのお母さんと私の母が同じ部門で働くようになってね。休日お茶するくらいになってるみたいなの。」
「マジか…」
「それでね。うちの次男坊出来は悪いけど嫁に来てくれる子いないかなって言ってるみたいで…」
「外堀埋めに来てるのか。」
「そうなの…高津さんのお母さんは近所でも評判のいい人格者だし、悪気はないと思うんだけどね…」
コトコトと鍋の煮える音がこだまする。2人とも黙り込んでしまった。その時一通のLINEメッセージが凪斗の元へ届いた。それをみて凪斗は不敵に笑う。
「?どうしたの?」
「いえ、古い友人からですよ。あっ、それより来月の予定ですけど…」
話を逸らしてその場を収める凪斗。莉波は何も気がついていない。
店を後にし2人並んで歩く。この様子もずいぶん様になってきた。莉波はほんの少し寂しそうに話す。
「後2ヶ月くらいだね…。」
「確か高津さんって人の出張期間がそのくらいですよね。」
「そしたらこうやって会うのも終わりか…」
「そうですね…」
「そしたら凪斗くんが解放される。」
「解放って、変な言い方しないでくださいよ。楽しいですよ!」
「ホントに?」
「もちろん」
「よかった…」
他愛のない会話。でもどこか儚げだった。
これが2人が「偽りの恋人」として会う最後の日だった。




