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僕が血を捧ぐ理由  作者: ヤスオ


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4/9

最悪の御曹司

新年を迎えた。街はより寒さを強め、新春らしさを感じさせる。凪斗は実家から帰ると同時に外出の準備を始める。献血だ。

新年一発目の献血、つまり新年初の莉波に会えるのを楽しみに受付と検査を済ませて採血室へ。残念ながら担当は莉波ではなかったが、莉波の姿も確認できた。相変わらずの笑顔で他の人の対応をしている。

「では針入りますね。」

成分献血は時間が長い。その分莉波と話す機会があるだろう。そう考えていると早速莉波が来た。

「明けましておめでとう!今年もよろしくね!」

「こちらこそよろしくお願いします。」

本当は新年早々LINEで挨拶を済ませているが、アリバイ工作のために挨拶する2人。少し白々しい。

その後も莉波に視線が向いてしまう凪斗。相変わらず笑顔が多い。

しかし器具を取るために一瞬下を向いた表情が曇ったように見えた。

採血終了。スタッフが手際よく作業を進めてくれる。

「十文字さん、ちょっとこっち来て」

「はい!」

あれから莉波は明るく仕事を続けている。さっきの表情は気のせいか?凪斗はどうにも気になってしまう。

献血ルームを去る凪斗。どうしても気がかりで莉波のLINEにメッセージを残した。

(何か嫌なことありましたか?)

その日の夜。ティッシュ配りのバイトを終えた凪斗。

「お疲れ様でした。」

そう言いながらスマホを取り出すと画面に莉波から返信が表示されていた。その内容をみて一瞬戦慄する。

「どうしたんだい?」

「いえ、なんでもないです。」

心配する職員をかわして退勤を済ませる。自転車を置いてある場所まで駆け足で向かう。莉波のメッセージの内容を反芻しながら…

(前言ってた人、もうこっちにいるみたい。)

不吉な予感がさらに駆け足を加速させた。

家に着くなり莉波に電話を入れる。

プルルルル…

待機音の一つ一つが途方もなく長く感じる。しばらくすると莉波がでた。

「もしもし。」

「もしもし、十文字さん。LINEのあれ…本当ですか?」

莉波は少し不安と恐怖の混じった声で答える。

「うん…本当は2月からって聞いてたんだけど。なんか予定を早めたみたいで…」

「マジかよ…」

凪斗も焦りを隠せない。

「その人から何か連絡は?」

「うん、会える日はないかって聞かれてる。一応友だちとの予定でしばらく埋まってるとは言ってるんだけどね。」

一呼吸おいて冷静になる凪斗。少し話の方向性を変える。

「その人ってどんな感じなんですか?十文字さんの先輩で名士の息子ってことしか今のところ知らないので。」

「…ナルシスト」

「ナルシスト?」

「見た目はそこそこで背も高いからけっこう後輩の女の子からは人気あったわ。でもいっつも家の自慢話ばっかりで周りが疲れちゃうって感じかな。本人に自覚ないし。」

「そんな感じなんですね。」

少し沈黙する2人。嫌な緊張感で空気が張っている。

「…今の仕事のことは伝えてるんですか?」

「ううん、看護師してるってことしか知らないから献血ルームには辿り着かないと思う。」

「そうなんですね。とにかく、どうアプローチをかわすか考えましょう。」

「うん、そうね。ありがとう。」

それからしばらく電話を続ける2人気づけば日を跨いでいた。

「いっぱい話聞いてくれてありがとう。明日学校?」

「いや学校は明後日からですね。」

「そっか、でもバイトはあるだろうからそろそろ切るね。」

「そうですね。また話聞かせてください。」

「うん、遅くまでありがと。おやすみ。」

「おやすみなさい。」

不安を抱えながら床につく2人。この後待ち受ける事態など知る由もなく、目を閉じるのだった。

朝、目を覚まし歯を磨く凪斗のスマホが突然なる。スキマバイトからの通信だ。

「えっ?」

急遽応募していた仕事がなくなってしまったようだ。

(どうすっかな)

他の仕事を探す凪斗。都心はその日のうちに新しい求人がたくさん来る。その中に都合のいいものがないか探すが、あまり良さそうな求人は見当たらない。

しばらく自宅で大学のレポートなどを仕上げながら新しい求人を待つ。

昼を過ぎる頃に一件の求人が目についた。チラシ配りのバイトだ。少し遠いが自転車なら行けなくもないし、交通費もたくさんもらえる。

「これにするか…」

すぐに応募して自転車で集合場所へ。40分以上かけて着くと1人の男性が待っていた。おそらく彼が雇い主だと察して話かける。

「すみません、私。」

そう切りだすのを遮るように男性はスマホをいじりながらも大きな声で返す。しかし目は合わせない。

「ああ、バイトの人ね。もっと遅いと思ったわ。よろしく。俺さ、高津っていいます。」

血の気が引いた。その容姿、その苗字まさかと思いながら片手で渡された名刺をみる。

高津製菓営業部 高津浩二

ビンゴだ。間違いない。

(この人が…)

戦慄を隠せない凪斗


「えーっと、君学生さんだっけ?チラシ配りとかはやったことある?」

高津はそんな凪斗のことなど見ていない。スマホで何かやり取りをしているようだ。

「はい。昨日ティッシュ配りはやりました。」

凪斗は戦慄していることを隠すことに必死だがなんとか会話を続けようとしている。

「ふーん、じゃっ何となくわかるよね。これ、時間になったら歩いてる人に配って。」

無造作にチラシを渡す高津。どうやら都内の有名洋菓子店とのコラボ商品のPRのようだ。凪斗でも知ってるようなかなりの有名店だ。そんな店とコラボができるというだけで会社の格がうかがえる。

スマホの操作が終わり自身もチラシを持つ高津。凪斗に話かける。

「ねぇ、君大学この辺?」

「はい…、立山大学の社会学部です。」

「へぇ、じゃあ思ったより頭いいんだ。地元の子?」

「いえ、地元は仙台で一人暮らししてます。」

「ふーん、家金あるんだ。」

「普通の家庭です。だから奨学金とバイトで生活してます。」

「ふーん、都会への憧れかぁ。」

勝手な決めつけに少しムッとする凪斗。高津は凪斗の顔をみていないのでそんな様子に気がついていないまま話を続ける。

「普段はどんなバイトしてんの?」

「スキマバイトがメインですね。」

「えっ、何でそんなめんどくさいことしてんの?」

「交通費がもらえるからですよ。この辺りは平地が多いので自転車で遠くまで行くのもあんまり苦じゃないですし。」

「へぇ、やっぱ結構頭いいじゃん。」

「いえ…とんでもないです。」

そう言いながらも高津の言動が妙に鼻について少し苛立つ凪斗。とはいえ仕事なのでできるだけそれを隠してチラシ配りを始めた。

チラシは思いの外たくさんの人が手に取ってくれた。

「うわっ、これ美味しそう!」

「思ったより安いじゃん!買ってみよ!」

手に取ってくれた人たちからの評判も上々だ。ここまでいいと隣に嫌な奴がいても凪斗の気分も上がってくる。

「よろしくお願いします!」

「ありがとうございます!」

「是非お買い求めください!」

自然と声が出る。一方で高津の方はどこか気の抜けた対応ばかりだ。

「よろしくでーす。」

「うぃっす。」

「これ、結構美味いんでオススメっすよ。」

声は出てるが覇気がない。隣の凪斗とどちらが正社員なのかわからない。ただチラシに記載されている商品は本当にクオリティが高いようで尚且つ凪斗のエネルギッシュな雰囲気に煽られてどんどんチラシは無くなっていく。

「ありがとうございました!」

遂に全てのチラシを配り終わった。凪斗が時計をみると勤務時間終了まで30分近くある。流石に高津も凪斗の働きぶりはある程度評価しているようで

「いや、君やるじゃん!助かったよ!これ全部履けなかったら明日の分と合わせてまた別の場所で俺が配らなきゃだったんだよね〜。このクソ寒い中、だりーだろ?マジラッキーだわ。」

そう言いながら馴れ馴れしく肩を組んできた。

「あっ、ちょい待ち。親父にこのこと確認するわ。」

スマホを手に取り電話を始める高津。

「もしもし親父?チラシ全部配れたんだけどどうすりゃいい?バイトの子の契約、後30分くらい残ってんだよなー。」

しばらく凪斗の肩を組んだまま父親と電話をする。何を言っているか細かいことはわからないが父親は大いに喜んでいるようだった。

スマホをしまい凪斗の方をみる

「親父に礼をしろってきたからさ、一緒に飯行こうぜ!」

言われるがまま連れてこられたのはラーメン屋だった。

「ここにしようぜ!東京来たら来てみたかったんだよなー。隠れた名店らしいよ。」

最初は言われるがままだった凪斗は気持ちを切り替える。ここでこの男の人となりを確かめてやる!そんな覚悟で入店。

テーブル席に座って食券を店員に渡す2人。凪斗は名物だという醤油ラーメン並、高津は特製醤油ラーメン大盛りとチャーシュー丼を注文。

着丼まで向き合う2人。高津が話かけてくるため沈黙の間はほとんどない。

「君、意外とやるねぇ。もっと根暗だと思ったんだけどね。」

「はぁ…」

「このラーメン屋、経費で落ちるからさ、もっと頼んで良かったんだぜ⁈苦学生だろ?」

「まあ、見たところラーメンだけでお腹いっぱいになりそうなので。」

「大変だよなー、家が貧乏だとさ。」

「…」

途中からデリカシーのなさが少しずつ増していく。そして遂に

「彼女いんの?あのできる男ムーブは需要あると思うぜ?」

その質問に一気に緊張が高まる。

「お待たせいたしました。醤油ラーメン並のお客様は…」

「僕です。」

ラーメンが来ても凪斗の緊張はおさまらない。

着丼後手をつけない凪斗。

「食べねぇのか?麺伸びちまうぜ?」

「まだあなたの分が来ていないので…」

「おっ、そうだったわ。気がきくなー。」

とやり取りをしているうちに店員が申し訳なさそうな顔でラーメンを持ってきた。

「お待たせしました。特製醤油ラーメン大盛りです。」

「おっ、きたきた。美味そー。」

「あの…お客様。」

「ん?なに?」

「チャーシュー丼用のコンロの調子が悪く、もう少しお時間をいただくことになると思うのですが…」

「あー、そんなこと?いいよいいよ。むしろその方が勤務時間が潰れていいわ。」

「申し訳ありません。もう少々お待ちください。」

店員が去ってからまた話を戻す。

「で、いんの彼女?」

凪斗は言うべきか否か一瞬迷ったが心を決めた。

「います…」

高津がニヤリと笑う。

「やっぱなー、同じ大学の子?」

「いえ、年上の一般女性です。」

「おおー!年上をたぶらかしたわけねー。抜け目ねーな。」

「そんなつもりは…」

「いいって遠慮しなくて。よく見たら君さ、人生疲れた新卒の子とかにウケそうだしね。その子もチョロいな〜。」

一瞬ピキッと額に筋が入る。流石に凪斗も怒りを完全に抑えることができなかったようだ。それでも爆発するものを抑えるために話題を変える。

「一旦食べませんか?流石に麺伸びちゃいます。」

「おっ、そうだな!よし食うか!」

いただきますと手を合わせてから食事を始める凪斗。ラーメンの味は素晴らしい。莉波とこれたらどれだけ幸福だったか。そんなことを考えているなどつゆも知らずに食べながら話をする高津。

「うめーな!また彼女と来れば?」

「そうですね…」

「彼女ってさどんな子なの?」

その質問にまた覚悟を決めて答える凪斗

「綺麗で優しくて、尊敬できる方です。」

「へー、胸とか尻大きいの?スタイルいい?」

「そこまでは僕からは何も…」

「何だよつまんねーな。」

耐えられなくなった凪斗は逆に質問する。

「高津さんはいないんですか?恋人…」

ラーメンを啜りながら答える高津

「彼女じゃねえけど、結婚したい女ならいるぜ。」

その言葉を聞いた凪斗に今日1番の緊張が走る。それを再び隠して話を聞く。

「高校時代の後輩なんだけどさ、顔もスタイルも割といい感じでよー。まっ、芸能人に比べたらそうでもないんだけどな。運動も陸上でまあまあいい成績で何より親がうちで働いてんだよ!こんな都合がいいことないだろ?」

凪斗は怒りのあまり目を合わせることができない。声だけは冷静さを保っていた。

「その人は…あなたのことをどう思ってるんですか?」

「それがよー、何回も付き合おうって言ってんだけどはぐらかすんだよなー!」

「….そうなんですね。」

「しかも看護師なんてどこでもできるのにわざわざ東京にまで来て仕事してんだぜ?看護師なんてどこでもできんだろ?さっさと俺と結婚すりゃもっといい生活できるのによ。」

凪斗は怒りを持ったまま一歩踏み込んだ質問をぶつける。

「なんでそこまでその人にこだわるんですか?」

その質問の瞬間ヘラヘラしていた高津の表情が一瞬強張る。

「…そんなのお前に関係ないだろ。」

目を見開く凪斗。そのまま会話が一度終わり2人はラーメンを啜る。食べ終わった頃に店員がやってきた。

「大変お待たせいたしました。チャーシュー丼でございます。」

さっきの凪斗の質問でやや不機嫌になった高津は適当な返事をする。

「あざっす。」

店員が去ってから凪斗に話かける。

「食べ終わったなら帰っていいぜ。」

「…ではお言葉に甘えます。ご馳走様でした。」

そう言って席を立つ凪斗。去り際に高津にこう残す。

「…その人とうまくいけばいいですね。」

店をでた凪斗はしばらく早足で歩く。体が熱い。莉波と会う時とは違った熱だ。

ドカッ

思わず近くのゴミ箱を蹴り倒す。冷静になったところでゴミ箱を起こす。そしてスマホを取り出して誰かに電話を始めた。

「もしもし…すみません急に。ちょっとお願いがあるんですが…」

その目には怒りと共に強い意志が燃え上がっていた。

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