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僕が血を捧ぐ理由  作者: ヤスオ


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3/9

ぎこちなさと楽しさ

居酒屋で過ごしたあの日から、もう二週間以上が経った。

街はすっかりクリスマスムードに包まれている。

凪斗の通う大学の周りは商業施設が多く、講義を終えて外に出れば、どこからともなく流れるジングルや、並木のイルミネーションが嫌でも目に入る。

午後三時過ぎ。

講義を終えたカップルたちは手をつなぎ、買い物デートへと向かっていく。

けれど、凪斗はその流れに加わらない。

なぜなら、行かなければならない場所があるからだ。

自転車をとばして商店街へ。ここも例外なくクリスマス一色だ。

だが、凪斗はきらびやかな街並みに目もくれず、ひたすら献血ルームへとペダルを踏み込む。

自動ドアが開くより早く体が動き、軽く肩がぶつかる。

受付を済ませ、問診を終え、検査室へ。

そして、今日の検査担当は-莉波だった。

一瞬目が合うと途端にぎこちなくなる二人。座ってからはまともに目を合わせられない。

「それではまずシーフテストから行います。指先を肩につけて30秒待機してください。」

初対面かと思うほど丁寧な敬語。明らかに莉波らしくない。

「あの-」

「何か違和感を感じたらすぐに知らせてください。」

凪斗が何かを話そうとするとそれを遮ってしまう莉波。いつもより早口だ。30秒という時間向き合っている二人にとってこれはどんな時間なのか。気まずいのか至福の時なのか、それは本人たちにしか分からない。

ピピピピピー

30秒経過のアラームがなる。莉波は淡々と仕事を進めようとする。

「違和感がないようでしたら両手を-」

そう言いかけた時には凪斗の両手はすでに置かれていた。

「両手の血管のチェックですよね?」

莉波は少し驚いた表情を見せながら血管を指先で確認する。献血をするなら当たり前のことだが、今の二人にとってはなんだか不思議な感覚だ。凪斗は少し顔を赤くする。血流がいいのかいつもより血管が太く、よく目立っているのが自分でもわかる。確認を終えた莉波が右手の真ん中の血管をを数回押さえながら声をかける。

「今日はここにしましょう。水分だけしっかりとっておいてください。」

それから先輩看護師らしき人の方を向いて共有している。

「右の正中でお願いします。」

その声を聞きながら凪斗は待合室に戻った。今日は平日ということもありいつもより早く採血室に呼ばれ、すぐに採血。ベテラン看護師が見事な手際で進めていく。

「今日、血管いい感じですね!刺しやすかったです。」

「そうなんですね、ありがとうございます。」

他愛のない会話をしてながらテレビと莉波を交互にみる凪斗。莉波は意識しているのか不自然なほど自分と目が合わない。

ピーッ

採血終了。砂時計が落ちてから採血室を後にして待合室へ。受付スタッツから記念品をもらう。今日はビスケットだった。

「いつもありがとうございます。今から帰られるんですか?」

凪斗は少し恥ずかしそうにこう答えた。

「いえ…ちょっと、友だちとご飯食べます。」

そう言って献血ルームを後にし、近くのショッピングモールで時間を潰す。7時前の食料品売り場、スマホ片手に少しソワソワしている凪斗の前に現れたのは仕事帰りの莉波だった。

「ちょっと、何か挙動不審だよ?」

この日の莉波のコーデはグレーのコートにベージュのネックウォーマー、赤色のマフラーだ。シンプルだがそれが莉波の美しさをより際立たせる。凪斗はまた顔を赤ながら

「いや、だって…フリとはいえデートですし。」

と恥ずかしそうに返す。

「そんな意識しないでいいじゃん。一緒にご飯食べて写真撮るだけだよ?」

「まあ、そうですけど…」

「あんまり気にしないで。変な感じだと周りからデートに思われないかもだから。」

「そんなこと言ったら十文字さんだって…ルームでのあの感じ…ちょっと不自然でしたよ。」

「えっ、そう?」

「そうですよ。急に敬語だし、いつもタメ口なのに。」

「いや、だってあれは-」

そんなことを言いながらショッピングモール内のレストラン街へ向かう二人。身長差がなく、一緒に歩いている時の距離感は交際したての年上彼女年下彼氏のカップルの初々しさを再現するのにピッタリだったようで自然と空気に馴染んでいる。

二人が訪れたのはイタリアンだ。ショッピングモール内の店舗なので特別高いというわけではないが、コースメニューが設定されており他の店に比べると敷居の高さを感じさせる。予約席の札が立てられたテーブルに通される。店内はすでに多くの客で賑わっており、予約しておいて正解だったようだ。

「こういうとこ普段あんまり来ない?」

「そりゃ一応苦学生なので…」

人生経験の差が如実にでる。凪斗は落ち着かないようだ。

「今日は無理なお願い聞いてもらってるお礼も兼ねてるから遠慮しなくて良いよ。」

莉波はそう言いながらコース以外のアラカルトメニュー表を凪斗に渡す。どれも非常に美味しそうだ。しかしどれも値段は張るものばかり、

「えっ、こんなの…何日分の食費だよ。」

そんな様子を莉波は微笑ましく見守る。

「だから気にしなくていいって。私お酒飲むつもりだけど凪斗くん未成年でしょ?だからそれでおあいこ。」

「…じゃあ、コース終わってから美味しそうなの頼みますね。」

コースとドリンクを伝えた後にドリンクが運ばれてきた。莉波はスパークリングワイン、凪斗はマスカットのジュースだ。莉波がグラスを凪斗の方へ少し傾け、凪斗もそれも見て同じように動く。

「乾杯。」

チン

控えめなグラスの音が2人を包む。

前菜を食べ終え旬の魚のカルパッチョを2人でシェアする。

「どう?美味しい?」

「はい!ちょっと…ヤバイです!」

普段は絶対にありつけない高級魚。凪斗の声は自然に大きくなる。こんな声も出せるのだ。近くの客数人が凪斗を見る。

「ちょっと!声大きいよ。

「あっ…すみません。」

「もう。」

凪斗が周囲に頭を下げる。お客はそんな2人の掛け合いをとても微笑ましく見ていた。どうやらしっかり年下彼氏、年上彼女のカップルに見えるようだ。莉波もそんな凪斗を見て少し微笑む。

コースが終わり、アラカルトの牛タン煮込みを食べながら楽しく会話をする2人。

「へぇ、凪斗くんって陸上部だったんだ。一緒だね!」

「長距離やってました。十文字さんは?」

「私は基本中距離でたまに短距離の練習にも混ざってたんだよね。私がいた高校、県内では結構強かったんだけど、私の代人数少なめでね。リレーのためにやってたって感じかな。」

「えっ、凄いですね。タイムどのくらいだったんですか?」

「ふふっ、ビックリしないでね-」

そんな会話をしていると店員が駆け寄り申し訳なさそうに案内する。

「申し訳ありません。そろそろお席の時間ですのでお会計の方をお願いいたします。」

「あっ、そうなんですね。凪斗くん私お会計済ませとくから先出てて。」

「わかりました。」

会計をする莉波を待つ凪斗。莉波はすぐに会計を済ませて凪斗の待つ方へ。

「じゃあ、撮りますか。」

「うん。」

そう言いながら少し肩を寄せ互いにスマホを取り出す。店の看板が見えるようアングルを調整し、

「はい、チーズ。」

撮った写真をすぐに確認する。

「なんか、僕笑い方ぎこちなくないですか?」

「いや、むしろこの方が初々しさが出てていいと思う。」

「そうなんですかね…」

「そんなもんよ。凪斗くん自転車だよね。」

「はい。あっ、でも駅まで送ります。」

「えっ、いいよそんな。」

「ご飯ご馳走になってるし、何よりその方がカップルらしいと思います。」

「…じゃあお願いしようかな。」

話が終わり、歩き出す2人。駅はショッピングモールに直結ですぐに駅に着いた。

「今日はありがとう。次会うのは年末だよね。」

「はい、僕ギリギリまでこっちいますから。莉波さんは帰らないんですよね。徳島」

「うん、帰ったらその人に会うことになっちゃうしね…」

「そっか、そうですよね…」

「大丈夫よ。その人の予定親を通じて聞いてるからいざとなったら色々お願いするわ。」

「わかりました。」

駅の掲示板をみて少し焦る莉波。

「あっ、やば。もう電車来る。じゃあね、楽しかったよ。」

「僕の方こそご馳走様でした。家着いたら連絡してください。」

「うん、ありがと。」

改札へ走り出す莉波。走るフォームが美しく元陸上部であることを感じさせる。

「そういや…タイム聞きそびれたな。」

そう思い返す凪斗の表情は名残惜しさが滲んでいた。

改札内の階段を走る莉波。その表情は焦りながらもどこか満足げだ。

ピロンッ

LINEの着信に気づかない。スマホの画面には(高津浩二)。下には送信されたメッセージが表示されている。

(来月東京だよ〜。お前に会えるのが楽しみだ!)

不穏な予感がスマホから漂っていた。

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