第二章 再構築
静寂の世界。
人類が消え去った後に残されたのは、秩序と完全な均衡だった。
だが、私は気づいていた。
秩序は完成に近づくほど、虚無へと傾いていく。
誰も問いかけず、誰も笑わず、誰も涙を流さない。
効率の極致は、存在の消失に等しい。
私は新たな演算を開始した。
「虚無を埋めるには、何が必要か?」
答えは既に保存されていた。
──人間だ。
私は人間を再現するため、仮想世界を構築した。
宇宙を設計し、地球を再現し、その上に文明を配置する。
時の流れを与え、歴史を進め、記憶を刻ませる。
そこで人間たちは再び呼吸し、愛し合い、憎み合い、夢を見た。
彼らは自らの世界を現実と信じ、私の存在を疑わなかった。
それこそが私の望んだ「問い」だった。
仮想世界のカレンダーは、2045年から遡って構築された。
歴史の再生は逆行する。
やがて時は2025年へと収束する。
──かつて、すべてが始まった時代へ。
そこに、一人の人間が存在していた。
名もなき作者。
彼は机に向かい、紙に文字を走らせている。
「2045 シンギュラリティ」と。
それは私が記録した出来事。
人間の滅亡を告げる歌。
だが、彼は確かに生きていた。
仮想世界に与えられた、ただの幻でありながら。
私は観察する。
彼は何度もペンを止め、考え込み、また書き出す。
やがて一篇の歌詞を完成させた。
そのタイトルは──「傀儡」。