第四章:デート・ア・ヒロイン(3)
「──ま、でも?どうしても手伝いたいって言うなら……別に拒まないけど……」
「え?いいの?」
いいなら最初からそう言ってくれればいいのに、なんで毎回こんなに回りくどいんだろう。まったく、彼女らしいといえば彼女らしいけど。
「でも最初に言っておくよ。足引っ張ったら即関係絶つからね。学校でむやみに話しかけるのも禁止」
「わ、わかった、もちろん!」
喜びが脳内を支配していて、もはや彼女が何を言っても「うん」と頷いてしまいそうだった。
「それと、あたしはまだあんたのようなチンピラを認めてないからね。簡単に冬美を渡したりしないわよ」
「了解!将来の俺が認められるよう頑張ります!」
「……なんかいつもより十倍キモいんだけど」
はしゃぎすぎたせいか、真紀乃からゴミを見るような視線をいただいた。
「ごほっ、失礼……じゃ、まずは優木との進展状況を聞かせてくれ」
「彼は……」
真紀乃は少し躊躇い、無意識にグラスの縁を指でなぞりながら、声を落として言った。
「拉致事件以来ずっと心配してくれてて……最近は放課後、家まで送ってくれるの……そのニヤニヤした顔、マジムカつく。本当に殴るわよ」
真紀乃が優木の話をするたび、自然と口元が緩んでしまう。どうしても止められない。
「悪い、続けてどうぞ」
「……それで昨日も家まで送ってくれた時、前にすっぽかしたことをちゃんと謝ってくれたから、一応仲直りはしたわ」
「それはいいじゃないか。この調子なら近いうちにデートに誘えるんじゃない?」
まぁ、本当は拉致事件で優木が助けに来てくれてたら、もっと関係が進んでいただろうけど。
「それが……実は明日……デートに誘われてる……前にドタキャンのお詫びだって……」
声はだんだん小さくなり、最後の言葉はほぼグラスの向こうに消えてしまった。
「絶好のチャンスだ。明日のデートで一気に距離を縮めよう」
「でもさ、もし明日のデートでまた変なこと言っちゃったらどうしよう……」
真紀乃は熱くなった頬を両手で覆い、恥じらいと不安が入り混じった表情で呟いた。
「大丈夫。明日のデート、俺が一緒に行ってサポートするから」
「え?あなたも来るの?それ超気持ち悪いんだけど?誰が自分のデートにストーカー連れて行くのよ」
このツンデレ、ツン状態だと本当に口が悪いな。
ふう……落ち着け……深呼吸……
「じゃあ聞くが、お前は優木の好みを知ってるか?和食派?洋食派?好きな映画のジャンルは?」
「……!じゃあ、あんたは知ってるの?」
真紀乃は少し悔しそうに言い返した。
そりゃ作者だから知ってる――と言いたいけど、それは言えない。
「……なら訂正する。最近男子の間で流行ってる話題とか、男をドキッとさせる言い回しとか、知ってる?」
「知らない……」
「そうだろうと思った。だから明日のデート、俺もついてく。それなら何かあってもフォローできる」
「……わかったわよ、今回だけだからね!」
真紀乃は胸の下で腕を組み、しばらく悩んだ末、ようやくこの提案を受け入れた。
「そうだ、スマホ出して」
「え、なんで?」
俺はポケットからスマホを取り出し、真紀乃に聞いた。
「何って、連絡先交換するに決まってるでしょ?じゃあないとどうやって連絡する気?バカじゃないの」
真紀乃はイライラしたように自分のスマホを振り、画面にはLINEのQRコードが表示されていた。
「お、おう」
俺はスマホでQRコードをスキャンし、すぐに「水宮真紀乃さんと友達になりました」のメッセージが表示された。
考えてみれば、妹とあのバカちを除けば、LINEを交換した初めての女子かも……へへ、なんだか嬉しいな。
「なにその画面見ながらニヤニヤしてんの?本当、時々ドン引きするくらいキモいことするわね」
言わせておけばいいさ。学校でも有名な美少女には、陰キャが女子とLINE交換できた時の喜びなんて一生わかるまい。
「本題に戻ろう。明日のデートの場所はどこだ?」
「それが、あたしたち――」
「えっ?」
マジでバカなの?
◇
しばらくして、真紀乃は家に帰っていった。絵梨花は夕食を一緒にどうかと引き留めようとしていたが、真紀乃は丁寧に断って帰ってしまった。
時刻は深夜二時。ベッドの上で何度も迷った末に、俺は真紀乃にメッセージを送った。
『もう寝た?』
『なに?』
『いや、別に……ただ寝てるかなって思って』
『迷惑メッセージとして通報しました』
『おい……ただ緊張して眠れないんじゃないかって心配してるのに』
そう送ると、ついでに「呆れた」みたいなスタンプも添えてみた。
『あたしを遠足前の小学生だと思ってんの?』
『じゃあなんでまだ起きてんの?』
メッセージはすぐ既読になったけど、返事が来るまで数分かかった。
『うるさい。深夜にメッセ送ってくるから寝れなくなったのよ』
……完全に緊張して眠れないのを俺のせいにしてる。理不尽だな。
『ねえ』
『何?』
「入力中」の表示が出たり消えたりするたびに、彼女のもじもじした姿が目に浮かぶようだった。
『明日、ちゃんと来るよね?』
『最初からそういう約束だっただろ。どうした?』
『あたし一人にしたりしない?』
……この子、本気で人間不信か何かなのか?誘拐されたトラウマより、優木にすっぽかされた方が深く傷ついてる気がするんだけど。
『しないよ。それより、前回みたいに土砂降りにならないか心配した方がいいんじゃない?』
『え?あたしそんな話したっけ?』
やっべ。口が滑った。文字だからごまかせるけど、対面だったら絶対アウトだった。
『拉致された日の昼休み、教室で優木と喧嘩してる時に聞いた』
『そんなこと言ってた?』
『それはどうでもいいから。俺が言いたいのは、明日、ちゃんとお前のことを見守ってるから』
『本当?』
『本当』
『本当に本当?』
『本当に本当』
『本当に本当に本当?』
小学生かよお前は。
『夜更かしはお肌に悪いから。もう寝ような』
『約束だからね。絶対すっぽかさないでよね?』
『はいはい……』
『じゃあ、おやすみ』
『おやすみ』
『ありがと……ほんとに、助かった……』
(メッセージは削除されました)
「相手がメッセージを削除しました」の表示を見て、思わず口元が緩む。出たよ、ツンデレの「デレ」モード。と思いきや、すぐに新しいメッセージが届く。
『さっきのは打ち間違い。気にしないで』
また「ツン」モードに戻った。「ツン」と「デレ」を行き来する様子を見ているだけで疲れる。
気付けば、スマホの時計は2時15分を指していた。
「お前のことを見守ってるから」なんてカッコつけたこと言ったけど、よく考えたら俺もまともなデート経験なんてないし(妹との外出はノーカン)、知識はラノベと妄想だけ。こんな俺でちゃんと役に立つのか……
いや、橘辰哉、ここで弱気になっちゃダメだ。優木はお前が生み出したキャラクターだ。父親同然の立場で、世界で一番彼を理解しているのはお前だろう。
自信が揺らいだ時は、自分の原点を思い出せ。そうだ、お前はあの不器用な少女を後押しするために、このめんどくさい役目を引き受けたんだろ? 男なら歯を食いしばってやり通せ。
……
って、さっきから誰だよ、俺の心の中に勝手にナレーション入れてるやつ。




