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序章:落ちぶれた小説家は中二天使の夢を見ない

ある人がこう言いました。「失敗は青春の証であり、失敗を経験することこそが青春を経験することだ」


俺は確信している、こう言った奴は絶対に本当の失敗を経験をしたことがない。


小さな挫折にぶつかり、それを克服するためにちょとした努力を傾けるだけでは、「失敗を経験する」とは言えない。


失敗は成功の母ではなく、単なる失敗。失敗を経験した人がみんな困難を乗り越えて素晴らしい結末を迎えるわけではなく、そしてそれらの困難を青春の汗と呼ぶこともない。


失敗した後、後悔し、徐々に自分の失敗を受け入れ、それから先には何もない。


現実にはドラマチックな逆転劇なんてなく、ただ淡々と幕が下りるだけ。


しかし、もしかしたらこれほど遺憾に満ちた青春こそが、青春ってやつかもしれない......


「いやいや……こんな書き出し、なんか気取ってるというか、カッコつけすぎてる感じがするな……」

俺は自分が書いた文章に対してツッコムながら、黙ってキーボードの削除ボタンを押した。


俺、一条京人(いちじょ きょうと)は今、人生最大なピンチに立ち向かっている。


締め切りまであと一週間、ようやく書き上げた冒頭の数行も俺の手によって容赦なく削除され、小説の進捗はほぼゼロと言える状態。


右足で床を軽く引いて、パソコン椅子ごとくるりと回転した。


俺が書いたこのシリーズ、『僕の冴えないラブコメ』は既に三年前に完結していた。だが、出版社はまるでこのシリーズを完全に搾り取るまで手を引かないようで、この三年間、ずっとこのシリーズのアフターストーリーや外伝、IFルートなどを書くように頼まれている。


正直、このシリーズで書けることは全部書いた。もうネタ切れだ。


「やっぱりファンサービスのIFルートなんて書くよりも、新しいシリーズを考えるべきか……」


「ピーンポーン」っとチャイムが鳴り、思考から現実に引き戻された。


床に転がったエナジードリンクの空き缶を慎重によけながら、俺は玄関へと向かった。ドアを開けると、中学生くらいの少女が立っていた。


淡い茶色の長い髪に、それに似合う琥珀色の瞳。前髪には目立つ十字のヘアクリップが留められ、少し古風なワンピースが幼さのある外見に不思議な成熟さを加えていた。


簡単に言えば、可愛い美少女だ。


「喜ぶがいい、迷える子羊よ。我が名はラフィエル、今偉大な神がお前の前に降り立ったのだ」


——前言撤回、どうやら変な奴が来た。


「ラフィエルって天使の名前じゃなかったか? それなのに何でおまえが神ってわけ?」


「ふふふ、今の若者がまだ私を知っているとは思わなかったな。おまえもなかなか博識だな、褒めてやろう」


ゲームやアニメでよく出てくる名前だから知ってるだけ、でも褒められるとちょっと嬉しいな。


「まぁ、話を全部語ると一日では足りないね。簡単に言うと、お前ら人類が知っている神はもう存在しない。神の仕事は天使たちが引き継いでいる。だから私を神と呼ぶのも決して過言ではない」


——変な奴だけじゃなく、怪しい宗教団体の勧誘だった。


「あー、すみません、宗教団体に入る気は今のところないです。隣の佐藤さんに聞いてみたらどうですか? 多分興味持ってくれると思いますよ」


「え?」


「それじゃ用事があるんで、良い一日を」


ドアを閉め、鍵がかかっていることを確認した後またパソコンチェアに腰を下ろした。


……って、俺、何か変なこと言ったか?


──中学生ですら宗教団体の勧誘に参加しているなんて、世も末だな。そう心の中で思った。


「勝手に怪しい宗教勧誘扱いしないでくれる?」


声がドアの方から聞こえた。玄関を見ると、さっきの自称神の少女の上半身がドアをすり抜け、続いて下半身もすり抜けて玄関に入ってきた。


「マジかよ……やっぱり毎日4時間しか寝てない癖、やめた方がいいな……」


まだ目の前で起きていることを受け入れることができない。とりあえず机の上のエナジードリンクを飲んで落ち着こうとしたが、空だった。。


「昔の人々は私が現れただけで跪いて拝んだものだが、現代人は疑心暗鬼だな。ネットの影響か?」


彼女は俺の手にあるエナジードリンクを指さし、元々空っぽだったアルミ缶に重みが生まれ、微かな気泡音が聞こえてきた。


一口飲んでみると、うーん、いつもの無糖柑橘味だった。


夢じゃないんだ。


驚く俺を見て、ラフィエルはどや顔で言った。


「さて、神様の話を聞く気になった?安心しろ、今なら無料だよ。」


まだ夢を見ていることを願う。


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