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ギフト・オブ・ファングズ  作者: アルキム
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4.灼熱のモーニングコール

冷水を頭からぶっかけられて起こされるよりも残酷な目覚め方が、この世にあるとすれば――。

それは間違いなく、生きたまま太陽に焼かれることだろう。


朝一番の柔らかな陽射しを浴びて、ゆっくりと瞼を開ける。

そんなことは、俺――白塚初嵐(元・高二男子、現・異世界勇者、給与待遇未定)にとって、ごくありふれた日常の一コマ……のはずだった。


だが、今日は違った。


「ぐあああああああっ! 目が、目がぁぁぁぁ!」


まるで真っ赤に焼けた鉄串を、眼窩に突き刺されたような激痛。

俺は本能的に悲鳴を上げ、両手で目を覆いながらベッドの上でのたうち回った。


「失明する! マジで失明するって!」

「熱っ! 熱ゥゥゥ! 足が! 腕が! 燃えてる、マジで燃えてるぅぅぅぅ!」


哀れな悲鳴を上げながら、陽光に完全に制圧されたベッドから手足をバタつかせて脱出を図る。

その無様な姿は、熱した鉄板の上に放り出されたイカそのもの――いや、むしろ“焼きイカ”の当事者そのものだ!


俺は苦痛に顔を歪めながらベッドから転げ落ち、這いつくばって部屋の隅へ。

唯一、太陽の侵略を受けていない壁際の聖域へと突進する。


「ふぅ……はぁ……ふぅ……助かっ、た……」


部屋の隅、わずかな日陰に身体を丸め、背中を冷たい壁に押し付ける。

ようやく、身を焦がすような灼熱痛が少しだけ引いていった。

視界に炸裂していたホワイトアウトと、無数に飛び交う金色の星屑が徐々に消え、ぼやけていた焦点が再び結ばれる。


待て、落ち着けヴィラン。まずは現状整理だ。


荒い呼吸を繰り返しながら、危うく俺をあの世へ送りかけたこの“豪華客室”を、恐怖とともに見回す。

まだ日の出直後の早朝だというのに、太陽光は無慈悲にも部屋の大半を埋め尽くしている。

採光が良すぎるだろう。もしここが吸血鬼の処刑場だとしたら、これ以上ないほど完璧なVIPルームだ。


「……本当、ご馳走様でしたよ、国王陛下」


恨めしげに毒づきながら、俺はスパイ映画のごとく慎重に爪先立ちをした。

部屋に残されたわずか数平方メートルの影の上を移動し、ついに厚重なベルベットのカーテンの端を指先で捉える。


シャッ――!


カーテンを隙間なく閉め切ると、部屋は瞬時に安堵をもたらす暗闇に包まれた。


「ふぅ……」


重荷を下ろしたように、俺は床に大の字になって瘫れ込む。

まったく、異世界転移してまだ二日目だぞ?

さっきの数分間で、寿命の半分を持っていかれた気分だ。


それにしても、今の俺はもう完全に“太陽NG”な体質になっちまったらしい。指も爪もやたらと伸びている。

ということは、ニンニクもダメか? 銀食器も取扱注意か……?


『吸血鬼勇者』としての生き方という、極めて深刻なテーマについて思考を巡らせようとした――その時だった。


ドンドンドンドン!


ドアの外から慌ただしいノックの音が響き、押し殺したような悲鳴も混じって聞こえてくる。


「勇者様! お、お怪我はありませんか?!」

「大変、今の音は何?! 魔物の襲撃?!」

「まさか、魔王軍の刺客ですか?!」


やべぇ! さっき大騒ぎしすぎたか?

俺は気まずい思いで床から這い上がり、意を決してドアを開けた。


そこには三人の若いメイドたちが詰めかけていた。

誰もが顔に焦りと心配を浮かべている。


「勇者様! ご無事ですか? ものすごい音が聞こえましたが!」

「お加減が優れないのですか? お医者様をお呼びしましょうか?」

「あの、勇者様、大丈夫ですか? お部屋の中……なんだか真っ暗ですが」


年嵩のメイドが、俺の背後に広がる闇を爪先立ちで覗き込もうとする。その瞳には、隠しきれない好奇心がありありと浮かんでいた。


「あ、アハハ、平気平気! 大丈夫だから!」


俺は慌てて営業用の作り笑い――アイドルスマイル(低スペック版)――を貼り付け、身体でドアの隙間を死守しながら、必死に手を振った。


「朝起きた時に、ちょっとつまづいちゃってさ。そしたらほら、あれだよ、連鎖反応ってやつ!

椅子が倒れて、椅子が机にぶつかって、机の上の物が落ちて、パリーン、ドカーンってね。そんな感じ!」


身振り手振りを交えながら、なんとかこの言い訳が真実味を帯びるように力説する。


「本当に……ご無事なんですね?」


彼女たちは依然として心配そうな顔で俺を見ている……というより、「伝説の勇者様って、プライベートではこんなにガサツな人だったんだ」という微妙な感慨に近い視線だ。


「あ! 勇者様、そのお召し物は……」


機転が利きそうなメイドの一人が、俺の着ているシワシワのTシャツを指差した。

言いたいことを飲み込んだようなその表情は、まるで理解不能な現代アートを見ているかのようだ。

無理もない。一晩中の苦悶を経て、このユ〇クロのコラボTシャツが原形を留めていること自体、聖遺物レベルの奇跡なのだから。


「……かなり、前衛的で大胆なデザインですね」


もっとハッキリ言ってくれて構わないぞ。


「えっ、あーこれ? ……こ、故郷の伝統衣装なんだよ!」


俺は苦し紛れに説明した。


「新しい平服をご用意いたしましょうか?」


優しげな表情のメイドが助け船を出してくれた。

ん? 俺は一瞬ポカンとした。

待てよ、そんな「渡りに船」な提案があるのか?


よく考えろ。朝一番に太陽光で処刑されかけたあの惨状を……。

必要だ! 必要どころの話じゃない、それはまさに救命ロープだ!

今のこの半袖Tシャツじゃ、部屋を出るどころか、窓際に近づくだけで即座に灰になりかねない。

『服装が不適切だったため太陽に消滅させられた史上初の勇者』なんて汚名は御免だ。


「おおおお! 頼む! 今すぐ! 至急!」


俺は咳払いを一つして、顎に手をやり、さも真剣に検討しているフリを装った。


「コホン……実はだな。

俺もここに来て日が浅いから、この国の風習、特に衣服に関するマナーについては、まだ不勉強なところがあってね」


俺は真面目腐ったトーンに切り替えた。


「正直なところ、この格好じゃ動きにくいし、それに……その、なんだ……失礼に当たるかもしれないだろ?

これは俺個人のイメージだけの問題じゃない。『勇者』という肩書きの尊厳にも関わることだ。そうだろう?」


畳み掛けるように続ける。


「だから、もし可能なら、見栄えが良くて動きやすい服を見繕ってくれないか?

そうだな、王宮のみんなが普段着ているようなものでいい。できれば、長袖長ズボンのタイプで頼む」


俺は一拍置き、あくまでついでを装って付け加えた。


「ああ、それと。

上からバサッと羽織れるような、少しゆったりしたローブかマントがあれば最高だ。

ほら、部屋ごとの温度差とか……朝晩の冷え込みに対応するのに、一枚羽織るものがあると便利だからな」


完璧だ! なんと雄大かつ非の打ち所がない言い訳だろう!

マントさえあれば、多少の木漏れ日なんて怖くない。

それに、フードとマントこそ異世界勇者の標準装備じゃないか?


「もちろんです、勇者様!」


俺の言葉が終わるや否や、メイドたちのテンションが跳ね上がった。

先ほどまでの疑念は消え失せ、「勇者様のコーディネート」というゴシップ的な情熱が湧き上がったようだ。


「すぐに準備してまいります!」

「勇者様、お好きな色はありますか? 木綿にしますか、それともシルク?」

「やっぱりペレシュの伝統様式ですよね! 勇者様の品格に見合うものでないと!」


どうやら彼女たちのストライクゾーンど真ん中の話題だったらしい。

三人が色やデザインについてキャピキャピと議論を始めたその様は、まるで『勇者様専属イメージ向上委員会』の発足だ。


この隙にこっそり部屋へ戻り、もう一度床に瘫れて呼吸を整えようとした――その時。


「勇者様」


凛としながらも、どこか重みのある女性の声が、メイドたちの背後から響いた。


「「「メイド長」」」


さっきまで大はしゃぎしていたメイドたちが瞬時に押し黙る。

一斉に頭を下げ、恭しく左右に分かれて道を開けた。その素早さと整然さは、まるで訓練された儀仗兵のようだ。


そこに立っていたのは、普通のメイド服とは一線を画す、高級文官の制服のような装いの若い女性だった。

いつの間にか音もなくドアの外に佇み、静かな表情で俺に一礼する。


彼女の鋭い視線が現場を一掃し、最後に俺のボロボロのTシャツへと注がれた。

眉が、わずかにピクリと動く。


「勇者様」


彼女は口を開いた。その口調は、まるで冷徹な公文書を読み上げているかのようだ。


「『ペレシュ王国・臨時特別人材管理法規』P章、第486条の規定に基づき……」


「本日中に宮廷書記処へ出頭し、身分登録および勇者契約の正式確認を完了してください」


……彼女は何を言っているんだ?

俺の口元に張り付いていた営業スマイルが、完全に凍りついた。

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