1.異世界と召喚と銀髪の美少女
再び目を開けた時、最初に目に飛び込んできたのは一羽の鷹だった。
神殿の頂に留まる雄鷹の彫像。 刺すような陽光がその輪郭を黄金に縁取り、威厳と粛穆さを湛えて大殿を見下ろしている。
俺はパチクリと瞬きをした。
壮麗なステンドグラスが、純白の大理石の床にまだらな色彩の影を落としている。 光の柱の中を漂う微細な塵や、どこからか紛れ込んだタンポポの綿毛がはっきりと見えた。あたりには嗅ぎ慣れない香りが漂っている。香料に、蝋燭と羊皮紙の匂いが混じり合ったような……。
ここは……どこだ?
視線を上げると、極彩色の帯がドーム状の天井へと伸び、正面にある継ぎ目のない巨大な白壁を際立たせている。二枚の深紅のタペストリーが滝のように垂れ下がり、その間には装飾過多な石の椅子が鎮座していた。
馬鹿げているほどに豪華だ。 俺の常識から完全に乖離したシュールな光景。どこかの王宮か?
あの仰々しい椅子が王座だとするなら、そこに座っているファストフード店のカーネルおじさんみたいな白髭の老人が、国王ってことになるんだろうな。
彼は今、口をあんぐりと開けて俺を見つめている。
おいおい、失礼だな。 俺の顔に何か汚いものでも付いてるか?
だから……一体ここはどこなんだ? コミケが開催されるなんて聞いてないぞ。 それに、静かすぎる。
不意に振り返って初めて、自分が大勢の人間に包囲されていることに気づいた。
なんだこれ!?
彼らもまた驚愕の表情で、まるでパンダでも見るかのように俺を凝視している。 完全武装の兵士たちが、俺の背後を半円に取り囲んでいた。顔の神経を張り詰めさせ、腰の剣はすでに半分抜かれている。
おい、どこのアニメの撮影だよ?
ものものしい警戒態勢だ。彼らの後ろには長槍を持った一隊が控え、銀色の鎧が陽光を反射して目が眩むほどだ。
人が多いな。 冗談にしては手が込みすぎている。ただの同好会のイベントだとしたら、この人数とクオリティは異常だ。
とりあえず、挨拶でもしておくか? 俺は手を上げ、軽く振ってみた。
「ど、どうも……?」
その瞬間、群衆が爆発したかのようにざわめき出した。俺以外の全員が「ゴニョゴニョ」と耳打ちを始める。静寂に包まれていた神聖な広間が、一瞬にして俗世の喧騒に満たされた。
やめてくれよ。 俺はアイドルじゃないんだ、そんな反応されると恥ずかしいだろ。
髭を蓄えた数人の老臣が王座に駆け寄り、信じられないものを見る目で俺を盗み見ながら、口元を隠して何か囁き合っている。 だからさ、あんたたちのその態度、本当に失礼だって。 俺たち、初対面だろ。
ん? あれは誰だ? 大殿の反対側、同じく顔が見えないほどの重装備の兵士に守られている……
あぁ……。 美人だ。
思わず視線が吸い寄せられる。 魔法陣のような模様の中心に凛と立ち、両手で杖を高く掲げ、瞳を閉じている。雪のような肌に白地に青の縁取りの法衣が映え、銀の長髪と袖が風にたなびいている。 全身から、淡い光を発していた。
何をしてるんだ? 詠唱か? 俺に向かって?
一体どこのコスプレ会場だよ。 ……いや、そもそもなんで俺はここにいる?
銀髪の女子が閉じていた目をわずかに細め、両手をぐっと押し下げる。すると、俺の体もその動作に合わせてゆっくりと降りていく。
待て待て、降りる?
そこでようやく気づいた。 俺は幾つかの光の粒に支えられて、宙に浮いていたらしい。ぶらつく足の下には藍色の塗料で描かれた魔法陣。周囲には蒼白い炎を揺らす蝋燭が整然と並んでいる。
マジで魔法なのか?
昨日起きた出来事が、俺の前半生における世界への認識をすべて覆したとはいえ、今はまたどういう展開なんだよ。
俺は羽毛のようにふわりと、空中から落下した。 冷たい石床の感触が足裏に戻り、これが休み時間の白昼夢ではないことを確信させる。
まさか本当に……。
俺は無様に尻餅をついた。甲冑の兵士たちが即座に詰め寄り、金属の擦れる音が響く。 おい、マジで遊びじゃないのか……。
彼らの装備は素人の遊び道具じゃない。真剣そのものだ。
宮殿の正門から涼しい風が吹き込み、また数枚のタンポポの綿毛が舞い込んだ。陽光は容赦なく、純白の大理石に降り注ぐ。窓からの光が移動し、俺の足先を正確に掠めた。
熱っ!
針で刺されたみたいだ。俺は身を縮め……周囲を窺う。 まあ、誰も気にしていないようだし。 俺は大きく息を吐いたが、途端に潮のような眠気に襲われた。
頭がくらくらする。足に力が入らず、立っていられない。
完全武装の兵士たちを無視して日陰に滲り寄り、なんとか座り込んで体を丸めた。悪意ある日光を避けるために。 誰かが背中に毛布を掛けてくれる。
国王たちはまだ呆然とした表情から回復していない。 空気は騒然とし、王座の周りの老人たちの舌打ちや議論がはっきりと聞こえる。
ふと、喧騒が止んだ。 コツ、コツと靴音が響き、兵士たちが道を開ける音がする。
音は俺の目の前で止まった。 白いサンダルに包まれた、華奢な足。
俺は顔を上げる。 あの術者の少女だ。
銀色の長髪が陽光の下で輝き、髪の間には星屑が絡まっているかのよう。間近で見るとその顔立ちはさらに精緻で、長い睫毛の下でスミレ色の瞳が揺れていた。
彼女は俺に手を差し伸べ、桜色の唇を動かした。
「ようこそペレシュへ。勇者様」




