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格の違い

『魔法少女って強くて、可愛くて、いつか私もあんな風になってみたいです!』


『最近の魔法少女は可愛い子ばっかりですからね。最近の推しはまだ無名ですがブラウン色の衣装まとってる子です』


 テレビを付ければ魔法少女に夢見る声や、アイドルか何かと勘違いしている人など色々な人が私達魔法少女を可愛く見ている。どれもただの幻想だ。


 実際はただの殺し合いに過ぎないのにも関わらず、彼ら彼女らにはとても美しく見えている。


 なってみたいという好奇心はあった。それでもいざ魔法少女となると殺し合いが待っているだけ。それでも願いが叶うと言う最終報酬は全てを天秤に賭ける程のものだった。


「本当に嫌になっちゃいますよ。どうして魔法少女はこんなにも血の気が多いんですか」


「キミも大概だろ。釣れた魔法少女を全員殺しているじゃないか」


 あれから数日の間に放課後や休日に関しても魔法少女と戦うだけで時間を過ごして来た。現在の合計人数は七人。今、散って行った子を合わせて八人。


 クリスタルを破壊して殺す事への抵抗も薄れ始め、今はいち早く力を溜めて願いを叶える事だけを考えている。


 物が無数に散りばめられた広い空間、転移先となる物体を多く設置し、自分に有利な地形を作り上げ待ち構えて居たのが分かる。所々に深く抉られた跡や、罅割れた箇所などいくつもの種類の攻撃の後が点在し、数日間にわたり何名もの魔法少女と戦ったのが分かる。


「あとどのくらい何ですか?」


「新人狩りしてても効率が悪いから一発大きな奴を潰さないと。ボクもそろそろ見応えが薄れて来ちゃったよ」


 特にウィルネさんのために見応えを作る気は無いが、確かにやって来る子達は単調で面白みが無い。武器を所持する系の子が多く距離も向こうから詰めてくるため殺りやすい。


「新人になる娘の多くは武器系だね。炎とか雷を操る子は強いから死ににくいんだ。キミは運が良いよ」


 何度か遠くの方で激しい戦闘音を聞いたことがある。稲光の直後に爆音が響き、天まで突く勢いの火柱が辺りを熱する熾烈な戦い。とてもじゃないが、近づける相手ではなかった。


 一歩でもその戦闘地帯に足を踏み入れればその瞬間に燃え上がり、稲妻が身体を貫くだろう。五人、八人と倒してもそんな感覚に襲われ、立ち尽くしてしまうほど。


「もう一回見に行ってみるかい? 何かあれば手柄を横取りできる」


 そう上手く行くとは思っていないが、変身を解き一般人としてその紛争が一番起こる地帯に足を踏み入れる。ここも何も無ければただの街中。一つ向こうの通りに入れば商店街が並び、活気のある街の姿目に映る。


 ほかほかで肉々しさが強いコロッケを片手にいつ起こるか分からない戦闘を待つ。辺りをふと見まわせば熱で溶けたのであろう鉄格子が目に入る。そしてその前を颯爽とランニングしていく街の住人、斜め向かいのベンチで美味しそうに同じコロッケを頬張る女子学生、争いが絶えないというのにこの街には不穏な空気が一切流れていない。商店街から漂う美味しそうな匂い、遠くで子供たちがはしゃぐ声、そんな天気の良い穏やかに街に似つかわしくない警報音が響き渡る。


 暗雲立ち込め辺りを一瞬にして暗く思い空気に変え、ピリピリとした空気感が街全体に一瞬で広がり、じりじりとした熱気が身体を身体に纏わり始め、もうすぐそれらが姿を現すと悟らせる。


 家から流れるように住人たちは慣れた足取りで列を作りながら移動していく。十分ほど警報音が鳴り続けプツリと事切れたかのように止まり、身体に電撃が走るような感覚が告げる。『今すぐここから離れろ』と。未だ姿も見せていないというのにこの圧力、生身の人間では立っている事がやっとだろう。


 頭がくらくらとし始め、胸に手を当て変身しようとするとウィルネさんに止められる。口を開こうとすると口を押えられ向こうを見ろと言わんばかりに視線を誘導される。


「~~っすっげーな!! これが上位の力か……!!」


 向かい端で同じコロッケを食べていた女子学生が目を見開きながら一瞬にして変化した環境に目を輝かせている。見つからないように身をかがめその様子を観察する。何も見えない隣に話しかけ、返事は全く聞こえないが会話をしている。明らかに彼女の目にはそれが見えているに違いない。


「私はまだバレてませんよね……!?」


「どうだろうね。あの子馬鹿そうだから彼女にはバレていないんじゃないかな? 彼女に付いているボクの同族は知らないけど」


 黒いセーラー服に身を包みながら裾の長いスカートの中で脚をじたばたとさせ、揺れ動くショートウルフヘアーの間から見える瞳はその圧倒的な力の対決に魅入り、輝かせる。子供の様にはしゃぐ彼女だが身長は百六七センチ程度で私よりも高い。


「まだ滾れる……消炭色に願いを――トランスフィグラーレ……!!」


 そう唱えると彼女の内から暗い灰色を滲み出し始め、彼女を覆い凝縮し彼女の身体にぴったりと付き、その鋼の様に引き締まった筋肉質な身体を包む。薄暗い灰色の衣がその上に生成され、彼女の戦闘装束が完成した。


 長い丈のスカートは変わらずに手には灰色の汚れた包帯を巻きつけ、胸にあるクリスタルの上には唯一魔法少女らしい大きなリボンが付いている。


「彼女に付いてるやつも馬鹿みたいだね。ボク達に気付いていない」


「名前は分かりませんよ? 同じ高校ならまだしも相手は中学生です」


「尾行して家の表札でも見れば良いじゃないか? 名前は適当に聞けば分かるさ」


 彼女を殺す算段を練っていると拳と拳を打ち付ける鈍い音が響き渡る。その一瞬で見せる気迫で彼女の強さをさせられた。――彼女は今まで倒してきた魔法少女とは明らかに違う。私より確実に上の存在だと。


 当たり前だ。こんな所に来て変身する魔法少女など腕に自信がある者しか近寄るはずもない。ヒシヒシと伝わる彼女の圧は大きな二つの圧にも引けを取らない。彼女は早めに殺すべき存在。


 汗が止まらない。震えが止まらない。この場に私以上の実力者が三人も集まるのだから。その緊張感と空気が今までにない感覚を身に当てつけられ、今までの戦いがまるでおままごとの様なお遊びに感じられる。


「さぁ、来いよ……強い奴――」


 すさまじい光と共に、激しい熱と共に両者が姿を現した。言葉を失った。口を開いたら喉が焼けてしまうのではないかと思う程、痺れたように一歩も動けずに格の違いを見せつけられた。


 足の力が抜け、地面に座り込む。視界の端ではようやく汗が滲み出す程度でしっかりと立ち尽くす姿が見える。その目はこの圧を受けてもなお戦意を失う事は無く、さらにやる気が湧き出ている。


 この場で尻込みしているのは私だけ、強くなった気でいた。怖さは克服したと思っていた。だが現状は脚が動かず、膝を振るわせている。自分の弱さを思い知らされ、思わず目を瞑り、頭を伏せる。ここは半端な人間が踏み入っていい領域ではなかった。


「――おい、なんでこんな所にいるんだ?」


 いつの間にか視界の端から正面へ移動し不思議そうにじっと見つめられる。姿が見られている状況で変身は出来ない。腰の抜けた私では逃げる事も戦う事も出来ない。


「あぁ、コロッケが美味しすぎて固まってたのか」


 謎の納得をされるもとりあえずその案に乗っかる。大きく首を縦に振り、素で怖がっている今の自分は逃げ遅れた市民にしか見えないだろう。


 少しぼやきながら頭を掻くも割り切ったように何かを決め、もう一度視線が合う。何が起こるかと思いきや身体を軽々と担がれ勢いよく空中へ飛び上がり、屋根を伝いながら衝突地点から離れていく。


 普段も同じ跳躍による移動方法だが、スピードも高さも別の技と言っていいほど違う。言葉を発しようとした瞬間に舌が痛みが走り、涙が滲む中、そんな涙も置き去りにしてしまう程のスピードで熱の縛りから解放されていく。


「おい、大丈夫か? 次からは周り見て動けよな」


「は、はひぃ……ありがとうございます」


 先程までいた辺りからはまた普段の様に雷鳴が轟、業火の炎が燃え盛る。軽い舌打ちをしながらその魔窟をじっと眺める彼女の目にはまだ闘志が宿っている。


「コロッケ屋からちょっと行った所のたい焼き屋も美味いぞ。じゃあな」


 それだけ言うと私を運ぶ時よりも速く飛んで行き、すぐに捉えられなくなる。


「……馬鹿で良かったね。さて、名前当てに向かうとしよう。さっさと殺したほうが早い」


「……いえ、彼女は殺しはしません。助けてもらったんですから」


 やれやれと言わんばかりに首を横に振りまた姿を消す。両手を握りしめ、震えの止まらない足を見る。


「こんなんじゃ生き残れない……私も強くならなくちゃ」

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