第98話 昆虫好きな蟲タカさん
グリム達はイベント中にたくさんの昆虫型モンスターを捕まえた。
この時期には少し早いがカブトやクワガタ。しかも豪運を見せてしまい、みんなゴールド系だった。
ポイントもいつの間にか五千を超えていた。
開幕から幸先のいいスタートを切ることに成功し満足しているが、まだまだ満足できることがある。
「いやー大量だねー」
「はい。凄いですよね、グリムさん!」
「そうだね。これだけ大量に捕れるなら今後は虫捕りを中心に……」
「「それはダメ!」」
グリムの案は速攻で却下されてしまった。
分かる。凄く分かる。こんなことをしていてもつまらないのだ。
特にフェスタは途中から飽きが来ていた。ポイントが捕まえる度に入るおかげで笑顔だったが、戦闘でもなく単調な作業だったこともあり、途中で集中力が完全に切れていた。
Dは思った以上に頑張ってくれていた。
けれど凄く嫌がっていた。やっぱり普通の子は虫が苦手なのだ。
グリムは痛感させられて、途中からDにも下がって貰った。
申し訳なさそうにするDの目が痛いほど伝わると、グリム達はまだまだ稼げそうだったが止めたのだ。
「とは言え、誰か買い取ってくれる人はいるのかな?」
「うーん。そう言えばSNSで虫を買い取ってくれるプレイヤーがいるらしいよ」
「なに、その都合の良い展開?」
「そうですね。都合が良すぎますけど、すっごくありがたいですね! フェスタさん、その人は今何処にいるんですか?」
世界には色んな人が居る。そんな中で虫を高値で買い取ってくれる虫コレクターが居るのも不通と言えば普通だ。
けれど今となっては好都合すぎる。
その人ならきっと大切にしてくれるだろうし、安くてもいいから買い取ってくれるかもしれない。
早速何処にいるのかフェスタに尋ねるが、表情が怪しい。
「うーん、知らないなー」
「知らないの?」
「うん。フォンスにいるらしいけど、確か蟲タカって人で……」
名前だけは分かっていても、何処にいるのか分からないのでは意味がない。いや、完全に意味がないのではなく、あまりにも難易度が跳ね上がる音がした。
それもそのはず、フォンスはこの国の中心だ。しかもこんなに道行く人が居る中で捜すのは困難でしかない。
これは相当時間が掛かる。グリムとDは神妙な顔をする。
そんな中、突然背後から声を掛けられた。
「呼んだかい?」
「「「うわぁ!」」」
突然低くて湿った声がした。
グリム達は流石に驚き飛び上がる。
目を見開いて警戒すると、背後から声を掛けて来た男性から距離を取った。
「えっと、誰? それよりいつからいたの?」
「今だよ。たまたま通りすがったんだ。ごめんよ。それでさ、俺のこと呼んだよね?」
「えっ?」
何を言っているんだろう。一瞬理解が追い付かない。
けれどすぐに頭の中で整理され、目の前の湿った低い声の男性=蟲タカらしい。
グリムは納得すると、髪まで湿ったみたいな黒髪癖毛の蟲タカに確認を一応取る。
「蟲タカさん?」
「さんなんてよしてくれよ。俺はただの虫コレクターの蟲タカ。気持ち悪く思ってくれてもいいぜ」
「そうは思わないけど……虫を買い取ってくれるんだよね?」
「ああそうさ。全部買うぜ、全部。さぁさぁ見せてくれよ、アンタ達が捕まえて来た可愛い可愛い虫達をよ」
ちょっと特殊な人の匂いがした。けれど悪い人じゃない。それだけは確かだ。
虫愛が全身からオーラとして溢れ出して射る。
そのせいだろうか。少し蜂蜜の匂いがする。良い香りを通り越し、残念ながら厳しかった。
「ねえねえ蟲タカー」
「なんだい?」
「臭いキツいよ? 体洗ったらー?」
「フェスタ!」
散々なことを言ってしまった。きっとこういうファッションなんだと落とし込めば、まだギリギリ理解もできていた。
けれどフェスタの些細な一言が重たくのしかかる。
けれど蟲タカは寛容だった。酷い罵声にもへこたれない個性を確立しているのだ。
「別にいいよ。この匂いは確かにキツいかもしれないけど、おかげで虫が寄って来てくれるんだ。もう、嬉しくて嬉しくてたまらないんだよ」
「そ、そうなんだ」
「いや、もう、そうだよ。虫だよ、虫。あの虫が来てくれるんだよ。嬉しい以外の何者でもないじゃないか」
完全に常軌を逸していた。イキ過ぎていた。グリム達は関わり合いになりたくないと感じたが、虫を買い取って貰わないといけない。
ゴクリと喉を鳴らした。一旦意識を変えることにする。
グリム達はインベントリの中から虫かごを取り出すと、中に入っている虫を蟲タカに見せた。
「これなんだけど」
「おおぅ、ゴールド系! これは良い。これは良いよ。凄く、凄く良い。もうこれは、もうあれだよあれ」
「どれ?」
「最高最高。うん、言い値で払うよ。いくらでも言って、全部買い取るから」
蟲タカは口からダラダラと涎を垂らしていた。
髪の毛の間から見えた目は完全にヤバい奴だった。
グリム達はたじろいだ。身を引くと、全身に悪寒が走った。
「えっと、それじゃあ……一匹一万でどう?」
「一万!?」
「高いかな? それならもっと安く……」
「いいよ。それじゃあ二万出すよ。一匹二万。二十匹近くいるから、四十万だね。はい、即座に払うから。早く、早く譲ってよ!」
怖かった。怖すぎて仕方なかった。
グリム達は多分相場よりも大分安い値段で売っていた。
けれどそんなこと如何でもいい。とにかくこの状況を打破したかった。
「五十じゃダメかな?」
「五十? ちょっと高いけど、いいよ。全然いいよ!」
グリム達は蟲タカに虫を譲った。
代わりにPをたくさん貰った。
蟲タカの手が震えていて、あまりにも気色が悪かった。
「いいよ。本当に良い! また良い虫が入ったら譲ってね。それじゃあ、それじゃあ」
「あっ、はい」
蟲タカは子供のようにはしゃいで消えた。
瞬きをして放心状態になってしまうと、グリム達は固まってしまう。
「良かったのかな?」
「良かったです、よ? 多分ですけど」
「あはは、凄い人だったねー。ん?」
完全に引いていると、蟲タカが走って戻って来た。
グリム達は訊かれたのかと思い、瞬きを何度かしてしまった。
ヤバいヤバい。グリム達は焦るけど、蟲タカには聴こえていないようで、メッセージを一つ送った。
「これ、なにかあったら呼んで。優先的に相談に乗るから」
「あっ、はい」
蟲タカはグリム達とフレンド登録をした。
やることを終えるとすぐさま立ち去る。
本当になんの時間だったのか、無の中に閉じ込められてしまうと、グリム達はしばしの間固まってしまうのだった。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。