第92話 PCO公式配信6
アイとナミダはいつも通り待機していた。
今回はイベント開催予定の公式配信だ。
今までやって来なかったイベントだが、どうなるか今から楽しみ。
アイとナミダはフシギのカウントで配信を始めた。
:おっ、始まった!
:そろそろイベントかー?
:楽しみです
:今日はアイさんとナミダさんだ!
:どうせPvPだろ
:www
etc……
たくさんのコメントが流れる中、アイとナミダはいつもの挨拶を交わす。
にこやかな表情で、ピンクとブルーのネオンが煌めく。
爛々と全身の服に施されたラインから迸り、今日も綺麗に輝いていた。
「皆さんこんにちはナビゲーターのアイです」
「同じくナビゲーターのナミダ」
「今回もいつものこの二人で配信をして行きます」
「それじゃあ……まずは告知?」
「そうだね。それじゃあまずはプレイヤーの皆さんが待っているであろう今後開催のイベントです。その名も……」
ナミダが珍しく溜めた。表情は一切動いていない。
瞬きの一つもせずに、無のままカメラの前に突き付けた。
「ゴールドラッシュ・イベント開催!」
ナミダはそう答えた。溜めに溜めた結果、いつものナミダからは信じられないような高揚感のある声が喉の奥から絞り出された。
けれど本人は何でこんなテンションで? と言わされている感が強い。
おまけに隣のアイと目の前のフシギも呆れてしまった。
:ゴールドラッシュ!?
:西部開拓自体かよw
:いつか来るとは思ってたけど、早くね?
:いや、絶対意味があるってwww
:掘るのかなー?
:めんどそうだな
etc……
コメントがたくさん上がっていた。
川の上流の流れに似ていて、次から次へと流されていく。
アイとフシギはいつもの目を使い、素早く掻い摘んだ。
見てみたところ、みんなゴールドラッシュ・イベントに関してはこの間のイベントに比べて期待値が高めらしい。
けれどネット社会だ。当然アンチもいる。その中にはゴールドラッシュ・イベントを面倒そうに考えている人も居るらしい。
もっと深く掘って行けば、なんのためにこのイベントが必要なのか。きっと分かっていない人も多いのだろう。そこでイベントの概要を発表する。
「今回のイベントは簡単に言えばP集めになります」
「P集め。つまり、金策」
「そう言うことになるね。こほん、今回のイベントではゴールドラッシュと言うことで、期間限定で特定のエリアにて、ゴールド系モンスターが多く出現します」
「ゴールド系はメタル系と違ってPがたくさん貰える。その日の時価、すなわち相場にもよるけど、通常の素材よりも金策には打って付け」
「そう言うことです。つまり、このイベントでたくさんのPを集めて資金を増やしてください」
アイは概要と言うよりも願望を答えた。
にこやかな笑みを浮かべておいて、現実に引きずり返す感覚。
ゲームには無い直接的な表現に、コメント欄は埋め尽くされた。
:えっ?
:はっ!?
:なんで?
:資金を増やす?
:なんのためですか
:マジで直接的だな
etc……
コメントが荒れ始めた。けれどこうなることは見越していた。
だからだろうか。アイは前以って言葉を考えていた。
何故資金を集める必要があるのか。
それは今後のイベントにではなく、ギルド会館が本格的に始動したからだ。
「多分、ギルドを利用してない?」
「うーん……ギルドはなにかとお金が掛かることがあるから、そのためのイベントなんだけどね」
「うん。後、今回のイベントは奪い合いもあり。つまりPvP」
「ゲリラ戦、乱闘もOKなんだよ」
:マジかよ!?
:なんでも有りじゃねえけど、なんか楽しそうじゃね?
:ギルドかー。いつかのためにはなりそうだな
:よっしゃやるか!
:普段から楽しいんだよなー
:PvPとかモンスターの討伐が一番楽しい
etc……
コメントも上々になって来た。
ゴールドラッシュ・イベントも最初はどうなるかと思った。
けれどPvP有りや、ギルドを作った人達はかなり乗り気で参加してくれるらしい。
これは楽しくなりそうで、最初見えていた不安が嘘のように消えて行く。
「それじゃあ詳細は後日!」
「期待……はしなくてもいいけど、楽しんで」
「ちょっとナミダ! フシギがプログラムしてくれるんだよ?」
「私は別に構わない」
「私は最後に楽しんでと肯定的に答えた。だから問題はないと思う」
「それはそうだけどね」
三人揃って全く反応が違う。
けれどその凸凹感こそが三者三様の表れなのだ。
いつもとは一味違う雰囲気で配信が着々と行われ、コメントも面白がっている。
:結局ゲームは楽しいんだよな
:しかも最近の配信硬すぎてたしな
:これくらいの方は個人的には好きです
:わーい! アイさんが生き生きしてる
:PCOの公式配信はこうでなくちゃな
:そろそろユカイさんが登場しても面白いかも。むしろ出て欲しい(期待)
etc……
「あれ、みんな楽しんでくれてる?」
「そう言うことだ。そのテンパり具合がいいんだろう」
「それが良いのか悪いのか、よく分からない」
「だけどこのドタバタが楽しいよね」
その様子に気が付いたアイ達は、薄っすらと笑みを零していた。
結局楽しいからこそ、今回のイベントも期待値を超えて来る。最後にはそうなると確信がアイにはあるからこそGOサインを出したのだと、観ている視聴者には分からない制作の裏事情を秘めるのだった。
それからアイ達はいつも通り硬くない柔らかい表情で配信をしていた。
結局最後まで視聴率は鰻上りで登録者数も爆増。
なんだかんだいつも通りがいいと気が付いた三人だった。
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