第84話 角岩の怪物1
振動が地ならしになって地面を伝った。
不自然に蠢き出す石片を睨みつけていると、段々地面が盛り上がって来た。
なにか来る。意識の外側で警告すると、グリムはDを連れて距離を取った。
「ぐ、グリムさん!?」
「フェスタ、一旦離れるよ」
素早くその場から退避する。
しかしフェスタは何故か動かない、否、動けなかった。
足が竦んでいるわけでも止まっているわけでもない。
地面が盛り上がり、フェスタのことを空高く突き飛ばした。
「ちょ、ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
不安定な体勢で突き飛ばされたフェスタは〈戦車の大剣槍〉を構えた。
大剣の重さを利用して安定して下りようとした。
けれど中々上手く行かないらしい。石片が蠢き、その姿を露わにした。
「ゴォォォォォォォォォォォォォォォン!」
石片が蠢き出すだけには留まらなかった。
地面を盛り上がらせ、ついにその姿を現した。
グリム達は警戒しつつもポカンと開けていた。
何故ならそのモンスターは完全にサイだったからだ。
「さ、サイ?」
「森の中にサイがいるんだ」
「そ、そこなんですか!?」
もちろんそれだけではなかった。
地面の中から姿を現したサイはとても巨大で、全身が灰色の鎧で覆われていた。
鎧の正体は重戦車と呼ばれることもあるサイらしいが、何処となく石の礫が混ざっている。
おまけに特徴的な角は地上に露出していた身の丈に合わない巨大な石片。
如何やらこれこそが角岩の正体だったらしく、極太の角を落ちて来るしかないフェスタに叩き込もうとする。
「えっ、ちょっと待った!」
フェスタも気が付いた時には時既に遅かった。
振り下ろされた角が大剣を優に超え、大剣使いであるはずのフェスタのことを軽く吹き飛ばす。
「ぬあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……くっ、このっ!」
しかしフェスタもただで吹き飛ばされる気は無かった。
大剣を上手く使い、【ジャスト回避】を発動させる。
サイの極太の角。先端の部分に大剣を当て、その反動で見事に避けきった。かに見えたが、思いっきり地面に叩き付けられた。
「ぐはっ!」
フェスタは白目を剥きそうになっていた。
口から胃酸を吐き飛ばすと、ボロボロになった体を無理にでも動かそうとする。
しかし中々立ち上がれない。これが現実なら確実に全身骨折者だったが、鞄の中から割れた瓶に入っていた回復ポーションを舌先で掬い上げて無理矢理にでも飲み込んだ。
「ぜぇぜぇ……うはっ! し、死ぬかと思った……」
フェスタはHPを半分以上持って行かれていた。
相当堪えたようで、今までのモンスターでは考えられない強敵に気圧される。
「フェスタ!」
「大丈夫ですか、フェスタさん!」
グリムとDも駆け付けた。
しかしフェスタは苦い表情は浮かべつつも、なんとか膝を付いて立ち上がる。
それから弱っていることを態度だけは見せないようにと、嘘を付いていた。
「あはは、大丈夫だよー。まさかあんなに吹き飛ばされるなんて、いやいや、強いねー」
笑って誤魔化してみた。しかし苦しい言い訳だった。
Dはまだしもグリムまでは絶対に誤魔化せない。
「相当弱ってるね。ポーションは飲んだ?」
「一応ねー。それで、あれが蠢く角岩だよね?」
「恐らくね。だけど参ったね、まさかこんなに強いなんて」
「それに大きいですよ。こんなモンスター、どうやって倒すんですか!」
Dの不安は最もだった。
目の前の角岩=イシヘンライノスは大きさだけ見れば他のモンスターとも変わらない。
けれど横ではなく縦が長い。全長は二メートルと半分。しかし高さは立派な角のせいもあり、五メートル以上は優にあった。
「そうだね。とりあえず……」
イシヘンライノスは目が悪いのか、角を使ってグリム達のことを見つけようとする。
まるで長い角を探知機のようにしながら地面に立つグリム達を見つけた。
体を捻って角を振り上げる。マズい。これは絶対にマズいと、この場に居る全員の脳に通達した。
「逃げようか」
三人は一斉に逃げ出した。
するとイシヘンライノスの振りかぶった角が正確に先程までグリム達が立っていた場所を削り取った。
空気が重たい。衝撃波になって全身を痛めつける。
ただ逃げるだけでこの威力だ。喰らったらただでは済まないと認識させるには十分すぎた。
「ひいっ! どうしたら良いんですか、こんなモンスター!」
「落ち着いてD」
「グ、グリムさん……」
Dは不安そうに顔を上げた。けれどそこには諦めていない、むしろ燃えているグリムの姿があった。
赤く爛々と輝きを放つ瞳がある。
その視線の先にはイシヘンライノスが居て、圧倒的な力にも怖気ない。
「どんな相手にだって勝てる。そう思えば自ずと足は前を向くんだよ」
グリムはそう言うと〈死神の大鎌〉を取り出した。
こんな相手に負ける気はない。その思いを胸に、威圧を放つのだった。
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