第83話 角岩が蠢き出す
台風は大丈夫でしたか?
お盆も明けたけど、頑張らないで行きましょうね。
私は、頑張っちゃってますが……とほほ。
石片森林の中をただただ歩いていた。
するとモンスターも数も増えて来た。
やはりというか、依頼を受けているからといってモンスターが出て来ない訳じゃない。
単純に出遭わなかっただけらしい。
「まさかここに来てモンスターが出て来るなんてね。そりゃぁ!」
「本当だねー。せやっ!」
飛び掛かって来る鳥のモンスターを蹴散らす。
バッサリ倒した仕舞うわけではなく、殺したりはしなかった。
力の差を見せつけると、モンスター達は次々逃げて行く。
そのおかげで襲われる比率を下げていた。
「す、凄いです。お二人共、一撃で……」
「倒してないから経験値は入らないけどねー」
「うん。倒しても美味しくないからね。無駄なことはしないよ」
正直リトルウルフ以上に強そうなモンスターに出遭っていない。
だからだろう。グリム達にも余裕の表情が生まれた。
気を引き締めていたはずが、フェスタは既に陥落。完全に呆けている。
言ってしまえば今のフェスタは向かってくるモンスターを叩き落とすだけ。
完全に自動迎撃用マシーンになっていた。
そのおかげか、体を酷使することなく、無駄に動かないから単純作業が嵌っていた。
グリムのこの安定具合を噛み締めていると、不意に視界が開け始めた。
如何やら石片森林の奥の方に来たらしい。
「うわぁ、ここだけ木が生えて無いよ!」
「本当だね。代わりに見えるのは……」
「たくさんの石片ですね。もしかしてこれが名前の由来でしょうか?」
Dの予想は広く捉えれば当たっているはずだ。目の前はかなり開けた平地。木々は何故か一切生えていなかった。
代わりに置かれているのは大きめの石片。ちょっとずつ形も大きさも違う。
色はかなり白っぽい。陽に焼けてしまったせいで色が落ちてしまったのだ。
おまけに雨風にもさらされてしまい、形も歪だ。
流石に可哀そうとは思わない面々だったが、ここまで来て何も無いと依頼の存在が怪しく感じてしまう。
「ねー、グリム。なにも無いよ? どうする、もう帰る?」
「いや、もう少し粘ってみるよ」
「粘るんですか? フェスタさんの言う通り、なにも無い様に見えますが……まさか、この石片が?」
「さぁ、どうだろうね」
Dは目の付けどころが良かった。
むしろそこ意外に見られるものが無かった。
グリムの視線も周囲に散らばる形の異なる石片に向いていて、もしかしたら動き出すのではないかと想像した。
ここにある石片が角岩と呼ばれるモンスターの可能性。まだまだ可能性の域を出ないが、かなり確率は高い。
現にグリムの直感が冴え渡り、強く訴えかけている。
ここにモンスターが居ると、脳に語り掛けてくる感覚が余計に信憑性を増す。
流石にグリムも自分の直感が全てではない。
けれど自分のことを自分で信じられないのなら、最初から直感なんて有りはしない。
グリムは最後まで直感を信じる構えを見せ、その場を睨み散らばる石片を触ってみた。
「温かいね」
グリムの手には石の温もりが伝わった。
如何やら長時間太陽の陽射しに焼かれ続けたことで、冷めてもずっと温かいのだろう。
「もしかしてグリムさん、一つ一つ触って確かめるんですか?」
「もちろんだよ。その方が確実だ。それに時間もたっぷりあるからね、今回はこの方法を使うだけだよ」
Dに質問されてしまった。流石にこんな地道な作業はドン引きらしい。
けれどグリムはこのやり方を続けることにした。
数も限られていて、時間の配分も完璧。だからこそ一つ一つ丁寧に探しても余裕なのだ。
「ってことは人手がいるねー。しょうがない、頑張るぞー!」
「わ、私もやります。えっと、その……それ!」
フェスタもDも手伝ってくれることになった。なんだかんだ言っても、二人共やる気は十分だった。
グリムはそんな二人に感謝すると一生懸命石片を触って回る。
けれど中々角岩に出くわさない。モンスターとて生物だ。触れれば感触が伝わったり、日に当たり続けると皮膚が焼けそうになるから動くと思っていた。
けれどそんな動作が一切見られないので、流石のグリムにも焦りの色が見える。
(まさか、ここじゃないのかな?)
いや、そうとは限らない。まだ見える範囲だけでも二十個はある。
グリム達は根気よく続けて触って確かめる。
しかし何も反応がない。手のひらに伝わるのは確かな温もりだけ。それ以外にこれと言って変わった様子は無かった。
「あー、ダメ。全然見つからないよー」
「本当に居るんでしょうか?」
「どうだろうね。これがダメなら、次を考えればいいよ」
グリムはそう答えると、額の汗を拭き取った。
その様子を見るとDはインベントリから取り出したタオルを差し出そうとする。
一方のフェスタは疲れが見えたのか、少し休憩することにした。丁度真後ろには大きめの石片があるので、背中を預けるには打って付けだった。
「グリム、ちょっと休憩にしよー」
「そうだね。それじゃあ……D?」
「グリムさん、これを使ってください」
「濡れタオル? ああ、ありがとうD」
「えへへ、喜んでもらえて嬉しいです」
Dはグリムに濡れタオルを差し出して、戸惑いながらもグリムは受け取る。
笑みを浮かべて感謝を伝えると、Dの方が喜んでいた。
「尊いなー。んでそれに気が付かないグリムは朴念仁と……ふぅ……ん?」
グリムとDの尊いやり取りを見届けると、フェスタは石片に背中を預けた。
陽の灯りがポカポカして気持ちがいい。今にも眠ってしまいそうで、腕をボーンと投げ出す。
すると石片が嫌がるようにグニュッと動いた。ような気がして、フェスタは首を捻った。
「今、ちょっと動いたような気が……気のせい?」
フェスタは気のせいだと思った。
けれどもしもそうならと思い、一応形を見て回る。
少し尖っている。いや、地面から剥き出しになってはいるが、三角形の形をした四角形で、まるで角のように表面が美しかった。
だからこそ眠れると思ったのだが、触れてみれば他の石の感触と少し違う。なんだか表面がゴツゴツしていて、薄い毛のようなものが生えていた。
「もしかして……」
「どうしたの、フェスタ?」
グリムは様子のおかしいフェスタに声を掛けた。
しかしフェスタはグリムに「んーん」と声にもならない相槌を返すと、〈戦車の大剣槍〉を思いっきり振り上げて石片に叩き付けた。
「そらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
膝を使って大剣を持ち上げ、石片に衝撃波を響かせる。
突然の奇行にグリムとDは言葉を失うが、フェスタが大剣を叩き付けるとおかしなことが起こった。
石片がガタガタと蠢き出す。まるでダメージが入ったことで、これから何かが起ころうとする合図。そんな気がしてならず、フェスタは警戒する。
「みんなー、ちょっと気を付けよ」
「「えっ?」」
その瞬間、グリムは嫌な予感がした。
Dの前に腕を出すと、少し後ろに下がらせる。
大剣を構え防御の姿勢を取るフェスタは誰よりもいち早く察知していた。
石片が不自然に蠢き出し、ガタガタと揺れる振動が地面にも伝って地ならしになっているのだった。
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