第82話 石片森林
「ここが石片森林だね」
「そっかー。それじゃあここに角岩? があるのかなー?」
「そうだね。多分あるんだよ」
果たして蠢く角岩とはどんなものだろうか。
きっと尖った岩が動くんだろうと思いつつ、あの絵を頭の中で思い起こすと、岩の用には見えなかった。
だとするとどんなモンスターが生息しているのだろうか。
新しいエリアに入る前に身を引き締めることにした。
「ううっ、怖いですね」
「大丈夫だよD」
「グリムさん……」
グリムは怖がっているDを励まそうとした。
けれどあまりにも漠然としていて、まだ信用が足りない。
だからこそグリムは虚勢ではなく、直感を信じて答えた。
「私達は強いから負けないよ。だから全部上手く行く。上手く行かないことなんて決してないんだよ」
グリムは名言っぽいことを言っていた。その様子をフェスタは横目で流すと、心の中ではいつも通りだなと思ってしまう。
けれど口では煽るようなことは言わず、むしろ全員の背中を押した。
「それじゃあみんなで行ってみよー!」
拳を天高く突き挙げた。
フェスタの渾身の叫びが響き渡り、閉じこもっていたDも頑張る気になる。
グリム達は視線の先にある石片森林の中に入ると、早速角岩を探すことにした。
「うーん、全然見当たらないね」
石片森林に入って十五分。歩き回ってみたはいいものの、モンスターの一匹にすら出遭わない。
ということは蠢く角岩に近付くこともできず、三人は探し回る羽目になっていた。
目的は合っても何も起きないのは少しつまらない。
もしかすると他にモンスターは出ないのだろうか?
少しだけ怪しんでしまうと、フェスタがゲーマーの既視感を口にする。
「もしかしてだけどさー、今は出ないとか?」
「今は出ないってどういうこと?」
「例えばだけど、依頼を受けちゃったから、本来は出るはずのモンスターが出現しないようになっちゃうとか?」
「そ、そんな!」
「だけどそれなら納得は行くね。少しつまらないけれど」
おそらくは的を絞らせるためだ。
狙ったモンスターが出ないのに依頼の意味がない。
そもそもギルド会館には困っている人から依頼という形で頼みごとが来るのに、それを解決せずにいつまでもほったらかしにしていたら、現実でも問題になってしまう。
なかなか理に叶ったやり方だとグリムは感じ取ったが、そんなことは言っていられなかった。
ガサゴソガサゴソ!
突然近くの草が揺れ始めた。
小さいが藪のようでグリム達の視線が集まり当然警戒する。
いつもでも武器を取り出せるように、グリムとフェスタは手慣れた様子で構えを取った。
何が出て来る。もしかして角岩が自ら出て来たのかと思ったが、そんなことはなかった。
「「ウワフッ!」」
飛び出してきたのは二匹の狼だった。
また狼かと思ったが、如何やら違う。
狼のモンスターとは何度も戦い、ハイエナとも戦った。
けれど目の前に現れたのはそれよりは小さく、子供というには凶暴で、グリム達を見かけると早速襲ってきた。
「あっ、いきなり襲って来るんだ……」
「キャッ、こ、来ない!」
フェスタは〈戦車の大剣槍〉を取り出した。
Dは身を屈めると怯えた様子だったので、グリムが前に出た。
〈死神の大鎌〉を引き抜くと、小さな狼=リトルウルフを叩いた。
「ワフッ!」
リトルウルフは吹き飛ばされた。
頭を前脚で抑えると、威嚇するようにギラギラと眼を向ける。
しかしグリムもフェスタも動じない。近付くなら即座に叩く。そんな威圧感を放っていた。
「ぐ、グリムさん!」
「大丈夫D? 怪我してないよね」
「は、はい……すみません。すぐに立ち上がります」
Dは転んでいたがすぐに立ち上がった。
それから腕に付いた腕輪を駆使して戦おうとする。
けれどそんな必要はないとばかりに、フェスタはリトルウルフに詰め寄った。
「それじゃあ私が相手しちゃおうかなー? なんてね」
フェスタは重たい〈戦車の大剣槍〉をブン! と思いっきり振り下ろした。
すると風圧が起こり、リトルウルフはたじろいだ。
体を捻らせると、完全にビビってしまった。
威嚇するのは変らないが、後脚を下げると、藪の中に逃げ出そうとする。
「ほらほら、どうするのー?」
フェスタはゆっくりにじり寄った。
するとリトルウルフは流石に怖くなってしまったのか、藪の中に飛び込んでしまった。
姿が見えなくなると、フェスタは「ちぇっ」と舌打ちを打つ。
「なーんだ、逃げちゃったよ」
「戦わなくて済んで良かったね」
「むーん、私は戦いたかったなー」
フェスタは残念そうに口走る。
仕方ないとばかりに大剣を背負い直すと、グリム達は森の中を歩きまわる。
まだまだ角岩の正体は分からないが、少なくとも他のモンスターも居ると分かり、グリムは安堵した。
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