第78話 PCO公式配信5(仕様変更のお知らせ)
「どうした?」
いつもの白い空間で、アイは唐突に声を出した。
疑問符を後ろに付けていて、不思議は気になってしまった。
視線を追ってみると、配信前のコメント欄が表示されている。
:こんばんは~
:あれ、仕様変更してある?
:そう言えばSNS全体で改新があったっぽいな
:コレってそれぞれでできるのかな? もしかしてアカウント主が決めてる?
そこには今まではアカウントの名前が出ていたはずが、表示ミスなのかされなくなっていた。おまけにかなり詰まっている。なにか仕様変更があったのだろうか?
「フシギ、名前が表示されないよ?」
「ああ、そういう仕様に変更した」
「変更したの!? 流石天才プログラマー」
「茶化すな。ユカイが勝手に仕様変更書を提出して、私とドライが頑張ってしたんだ。感謝しろ」
フシギは上から目線だった。
けれどそれだけのことをしていた。
アイはゴクリと喉を鳴らすと、「うん」とコクコク首を縦に振る。
「それから運営しているSNSの仕様も一律にしたからな」
「そこまでしちゃったの!」
「当たり前だ。私は面倒が嫌いだからな、予め作ったプログラムで全部書き換えたに決まっているだろ」
「天才……いや、天災なのかな?」
色々と不都合が出てきそうだ。特に何の告知も無しだと怒られそう。
アイは不安になってしまったが、フシギはその時はその時。民意など捻り潰すといった態度を見せる。
全く大した懐の持ち主、いや周りに興味がなさすぎ。少し心配してしまうレベルで、フシギは尖っていた。
「まあいっか」
「そう言うことだ。ほら、配信始めるぞ」
フシギは勝手に配信を始めようとした。
もちろん時間になったからだが、丁度に始められるとアイも緊張が走る。
ソファーに腰を下ろし、今回は両手を振って軽く挨拶から入った。
「みんなこんにちは。ナビゲーターのアイです。それから今日はこの人に来てもらいました!」
「同じくナビゲーター兼プログラマーのフシギ」
「今回はこの二人でゆるくPCO公式配信をして行きます」
:えっ、マジ!?
:フシギさんって珍しくね?
:確か会員限定で声だけ聴いたような……
;フシギさん、こっちにも出るんだ!
:凄い。この二人って最高じゃね
:この子が作ってるんだ。って、ナビゲーターって(汗)
「はい、私達のことを詮索するのはダメだよ」
「そうだぞ。どうなるか分かるな?」
「フシギ。フシギが言うと、冗談じゃなくなるから止めようね」
「ふん」
人前で配信をする態度ではなかった。
完全に唯我独尊と言ったようで、自分を軸に考えている。
けれどそれがフシギらしいし、コメントを止めたのも意味がある。
それ以上はアイの反応を見た視聴者達も弁える姿勢に入ってしまった。
「えーっと、そんなことはさておき。今日はいよいよPCOでアレが本格的に実装されるよ! その名も……」
「ギルドだ」
「あー、私の台詞取らないでよ。でもうん。フシギの言う通り、ギルドが本格的実装されますよ」
:ギルド!?
:マジかよ
:ついに来たのかよw
:今まで使ったことなかった施設あったな
:にしてもフシギさんに言われるのか
:空気の読まなさが逆に最高!
etc……
コメント欄が湧き上がった。
滝のように大量のコメントが投下される。
それをフシギは一瞬で読み解くと、それっぽいことを呟いた。
「それで、ギルドが実装されるとなにが変わるんだ?」
「うん。ギルドが実装されるとね、ギルド会館で色んな機能が使えるようになるんです」
フシギの質問に合わせて、アイはズバリ答えた。
単純明快ではあったけれど、それだけでギルドがたくさんの要素が詰め込まれていることに気付かせる。
しかし具体例がない。そこでフシギは更に続けた。
「例えばどんなだ?」
「例えばギルドホームを持つことができたり、ギルド限定の依頼、それからイベントも行う予定です。皆さん、ぜひギルドを作ってみてください」
アイは返しやすい質問ばかり投げてくれるフシギに感謝する。
その中で代表的に説明したのは主に三つ。
とはいえ実際のところはプレイヤー自信に体感して欲しいので、ここではある程度伏せることにした。ナイスな選択だとアイは我ながらに思う。
「特色を挙げるのは良さそうだな」
「そうだね。だけど良くないことはしちゃダメだよ」
「常に監視されていると思った方が良いな」
アイはビシッと注意した。ゲームを悪用されたくないからだ。
そこに釘を刺すようにフシギが冗談にもならないことを言う。
グサリと響くとコメントがピタッと止まった。
「フシギ、怖いこと言わないでよ」
「ふん。とりあえず今回の配信ではそんなところだ。それじゃあ後は頼んだぞ」
その様子に冷たい空気を感じたフシギは、表情を一瞬固めると席を立った。
アイは目で追いかけると、フシギはそう言い残して去ろうとする。
その後ろ姿の寂しさにアイは感化され、ビシッと立ち上がって追いかけた。
「あっ、待って待って!」
「うわぁ!」
フシギの悲鳴が上がった。
カメラに映らないところで後ろの襟を掴まれて引き寄せられたのだ。
イラっとしたフシギは怒り顔になる。
目付きが鋭くなり、音声を一時的にミュートにした。
「なんだいきなり!」
「勝手に行かないでよ」
「いいだろ。私がいない方が上手く行く。私はこの口振りだ。ゲキドと違って敵を作る。評判も悪くなるだろ」
フシギは自分の性格を熟知していた。
自分のような人間は裏方で丁度良い。そんな反応を見せ、今している格好も似合わないと本気で思っていた。
けれどアイは違った。ジッとフシギを見つめると優しく微笑みかけ、にこやかな笑みを浮かべてこう言った。
「フシギはなにも間違ってないよ!」
堂々とした態度だった。その様子にフシギは固まった。
瞬きをすることもできず、アイは続けざまに答える。
「確かにフシギは思ったことを言うから、敵を作っちゃうかもしれないけど、それはみんなのために自分が敵役を買って出てるってことでしょ」
「はっ、そんなわけない」
「嘘が下手だね。私に嘘は通用しないよ」
「むっ……」
フシギは黙ってしまった。耳の先まで真っ赤になってしまう。
指先が硬直していたが、アイはそれに気が付きギュッと握る。
「だから逃げないで。私達はフシギの味方だから、安心して欲しいな」
「あの時もこうだったな」
「あの時? ……そうだね。ふふっ、フシギってやっぱり可愛い」
「はぁっ!?」
フシギは顔を真っ赤にした。完全に照れていた。
その様子が如何しても可愛い。アイはフシギを何とか引き留め、配信に戻る。
それから配信終わりまで、アイとフシギはいつもの調子よりも少しだけテンション高く頑張った。
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