第76話 勇気あるお願い
グリムとフェスタはDと出会った。
偶然なのだろうか? まるでDがずっと待っていたみたいだ。
もしかしたらストーカーかもしれない。
なんて気は一切無く、グリムはDに優しく声を掛けた。
「どうしたの、Dちゃん? もしかして私達のこと、待ってたのかな?」
「は、はい! お二人の姿を見かけたので、ずっと待っていたんです」
「待ってたのー? へぇー、ストーカーだなー」
なんとDはずっと待っていたらしい。
確かにデンショバトは人の出入りが芳しくないから近づき難い節は微かにある。
けれども健気だと思った。ずっと待っていたと聞き、グリムは驚くがフェスタは酷いことを言った。
「ちょっとフェスタ、言葉を選ぼうね」
「むうぅ。ごめんね、D」
グリムは決して言わないことをフェスタが口にしてしまい注意する。
可哀そうだと思ったのだが、何故かDは否定しなかった。
「いいんです。私はお二人と話したかったんです」
「「話したかった?」」
なにか訳ありだろうか?
グリムとフェスタは互いに顔を見合わせる。
それから落ち着いたように見えて、実は緊張気味なDを見た。
耳の先まで真っ赤で、特にグリムと目が合うと動揺する。
「あ、あの。昨日は助けていただき、本当にありがとうございました!」
グリムとフェスタは固まった。
まさか昨日のことをずっと引き摺っているとは思わなかった。
あの場ですんなり解決したと思えば、Dは気にしてしまう性格らしい。
動揺で胸がバクバクしながら、丁寧に礼をして顔を一切見せなかった。
「そんなのいいのにねー」
「そうだよ。昨日のことは昨日のこと。無事に助かったんだから、それでいいよね」
「そうそう。気にしてたら、なーんにも上手く行かないよー」
「良いこと言うね、フェスタ。だからDちゃんも気にしないでね。ほら、顔を上げて」
グリムはDにそう言った。
するとDはゆっくり顔を上げると、目をキョロキョロさせていた。
グリムにはまだ続きがあると判る。しかも今のは前座で、本当はこっちが本題だと読み切れた。
「本当にありがとうございます。あの、フェスタさんはいいんですが、グリムさん!」
「な、なに?」
「私はいいってどう言うことー?」
釈然としなかった。なにか不公平さが出るような差別だろうか。
グリムはその手のことはあまり好きじゃない。
神妙な顔付になったが、如何やら考えすぎだったらしい。
「私のことはDって呼んでください。ちゃんを付けられるよりも、グリムさんには呼び捨てされたいんです!」
考えて身構えていたことを損した。
グリムとフェスタは一瞬放心状態になるも、すぐに帰還して意識を取り戻す。
如何やらDはグリムに呼び捨てにされたかったらしい。
変わった子だなと思いつつ、グリムはその要求に応えた。
「あっ、あー、分かったよ。それじゃあD」
「はい!」
Dはとっても威勢が良かった。おまけに元気で明るい。
こういう子は嫌いじゃない。
グリムはそう思いつつも、内側に秘めている隠し事を言及した。
「話は本当にそれだけ?」
「「えっ?」」
グリムのとんでも発言に、Dだけではなくフェスタまで驚く。
けれどフェスタはなにか言う前に、Dの口からグリムに質問が投げられた。
賛成も否定もしない。あやふやなものだった。
「ど、どう言う意味ですか?」
「私に隠し事は通用しないよ。私の持っているスキルも持ち前の直感も、全部お見通しだからね」
グリムは自分のことをそう評した。
するとDは諦めたように一瞬顔を下に向ける。
酷いことをしたかもしれない。そう思ったのも束の間。
Dが悪いことを考えているわけじゃないと既に予測していたグリムは、その口から出た勇気あるお願いに驚愕した。
「あ、あの! 私をお二人のパーティーに加えて貰えませんか!」
「「ん?」」
Dは声を張り上げて行った。さっきまでの緊張が一気にMAXまで立ち上ると、それから奥歯をグッと噛む。
その様子をグリムとフェスタは珍しい物を見た気分で呆然としていた。
まさかそんな誘いをされるとは思わなかったのだ。
「えっと、もう一度聴いても良いかな? 私達のパーティーに入りたいってこと?」
「はい!」
「ちなみにどうして? 私達とはそんなに接点も無いよね? 冷やかしなら残念だけど……」
「冷やかす気なんてありません! 私は、グリムさんやフェスタさん、お二人の役に立ちたいんです」
グリムはフリーズした。一秒間の間で脳がフル回転する。
如何して私達の役に立ちないのか。色んな方面で考えてみるが、全く出て来なかった。
心理学を学んでいるのに大概だ。自分の勉強の範囲外から来てしまい困惑する。
「ねえねえD。どうしてそんなことを思ったのー?」
「それは……その……カッコ良かったからです」
グリムもフェスタも目を丸くする。
急に舵を切ったと思いきや、予想の斜め上だった。
「カッコ良かった?」
「は、はい。私を颯爽と助けてくださったお二人の姿が、とても目に焼き付いてしまったんです。だから、その……私なんかじゃ全然役に立たないかもしれませんが、お願いします!」
Dは改めてグリム達に礼をして頼み込んだ。
一体全体わけが分からない。だけど面白い。グリムはDの真剣な様子もさることながら、その愛くるしい表情に加え、態度が無性に気に入った。
だからだろうか。盛大に笑いが込み上げてきた。
「あはははははははははははははは!」
失礼だとは思った。よくないことだと分かっていた。
だけどおかしくて仕方がない。
しかしながらDの様子は曇って行き、表情に影を落とすと落ち込んだ。
「や、やっぱりダメですよね。そうですよね」
「いいや違うよ。そう言うことじゃないから安心して」
しかしすぐに訂正した。
グリムはDの勇気ある行動に関心を惹き立てられる。
おまけに直感が頷きかける。Dを仲間にしたらもっと楽しくなると確信していた。
「あー、面白くなる。ねっ、フェスタ」
「ん? ああ、私はOKだよ」
「ありがとう、流石は親友」
フェスタと目配せをしてアイコンタクトで会話をした。
突然の視線に気になったが、フェスタもグリムの意図に気が付いてくれる。流石の親友と太鼓判を推す。
「顔を上げてよD」
「は、はい……」
未だに芳しく無い表情だ。
そんなDを安心させようとグリムはそっと頭に手を置いた。
ワシャワシャと軽く撫でると、目をギュッと瞑っていた。
「ぐ、グリムさん?」
「それじゃあ私達と一緒に冒険に出掛けようか」
「えっ!?」
突然の進展にDは驚く。
自分からお願いしたものの、まさか初日にOKを出されるとは思わなかったのだ。
ふと顔を上げた。そこにはグリムの顔がある。
優しい表情で撫でていて、Dは嬉しさと緊張の間に挟まれると、顔を真っ赤にしてしまう。しばしの間時間が止まる。脳の思考回路が遮断され、ただひたすらに撫でられて嬉しい人になることにした。
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