第71話 PCO公式動画1
グリムとフェスタはゾンビ・パーティーも無事に生き残り、赤茶山で搔き集めた赤砂も十分溜まった。
これ以上ここにいる必要は何処にもない。
少女には悪いが先に帰らせてもらうことにした。
「それじゃあ私達はこれで帰るけど、貴女はどうする?」
とは言え放っては置けない。
このまま放置して何かあっても気が病むだけなので、グリムは少女の身を案じて声を掛けた。
すると少女はモジモジしどろもどろになりながら、グリムの相槌に応答する。
「あの、私も今日は帰ろうと思っているんです」
「そう? それじゃあいっしょに帰ろうよ。いいよね?」
「OK。それくらい全然いいよー」
一応グリムはフェスタに尋ねた。
すんなりと了承を貰うと、グリムは少女に向き直る。
「それじゃあ帰ろうか」
「あ、あの!」
グリムは踵を返して帰り道を向いた。
すると少女がグリムに話し掛ける。
腹から出した声に一瞬何事かと思ったが、勇気を出して少女が質問を投げ掛けていた。
「あの私はDと言います。よろしければお名前を……」
「名前? 私はグリム」
「はいはーい。私はフェスタねー」
少女=Dは緊張した様子で名前を明かした。
グリムとフェスタもDに続いて自己紹介とまではいかない挨拶を交わす。
「グリムさんとフェスタさん。あっ、ありがとうございます!」
「名前くらい大丈夫だよ、Dちゃん」
グリムもフェスタも名前くらいはと寛容な気持ちだった。
パッと表情が明るくなるDに首を傾げつつも、可愛い子だと心から思った。
「それじゃあDちゃん。帰ろうか」
「は、はい、グリムさん!」
「あのー、私もいるんだけどー」
フェスタは疎外感に苛まれた。
しかしDは渡されたグリムの手を離さないように握りながら、フェスタのことも見えていた。
「帰りましょう、フェスタさん」
「おっ、私のこと忘れて無かったー」
「良かったね。それじゃあまずはフォンスまでだ」
「OK。肘と膝は終わったけど、護衛は任せないでー」
「どっちなの?」
あまりにも矛盾の多い言い回しだった。
けれどグリムは笑みを浮かべながら、Dを連れてフォンスまで帰る。
これにて本当にゾンビ・パーティーの脅威から脱したと安堵で胸を撫でた。
フシギは撮ったばかりの動画を編集していた。
カタカタとキーを打つ音が響いていた。
独自のUIで作られた動画編集ソフトで高速化し、サクサクと要らない部分をカットしてBGMを付けテロップを載せる。
その頃には動画の九割が完成していて、動画投稿を行っていた。
「これでいいな」
ある種の達成感を感じていた。
疲れ切った顔色でその場を離れると、動画サイトに動画がアップされていた。
「皆さんこんにちはこんばんは、ナビゲーターのアイです」
「同じくナビゲーターのナミダ」
スマホやパソコンのディスプレイに二人の少女が浮かんだ。
今回は配信ではなく動画。何かと思い視聴者が更新されたばかりの五分程度の動画を食い入る。
するとまずは開口、アイは指を立てて今回のPCOについて説明した。
「もう体験したかともいると思いますが、現在PCO内ではゲリライベント、ゾンビ・パーティーが開催されています」
「ゾンビ・パーティー。結構面白いよ」
「そうだね、頑張ったもんね」
「当然。だけどゾンビ・パーティーは完全にウェーブバトル。制限時間の中でゾンビ達の大軍を退けることが目的。発生条件は公表できないけど、一人だとまず厳しい」
「実際苦戦したプレイヤーもいるんじゃかな?」
アイの予想は正しかった。
あまりのゾンビの大軍に気圧されて逆にやられてしまうプレイヤーもチラホラいた。
おまけにこのゾンビ・パーティーは言ってしまえば完全にデバフ。
倒しても経験値は貰えない。なのに臭くてしんどくて気持ちが悪い。だからこそ、唐突に始まるゾンビ・パーティーに意味があったのだ。
「ちなみになにか対策ってあるの?」
アイはゾンビの群れに困っているプレイヤーに向けてアドバイスを求めた。
ナミダは用意されていた解答をズバリ言った。
「対策は単純、ゾンビは一撃で死ぬ」
「そうだね。防御力がとにかく低くて、HPも削ってあるから、ひのきの棒でも死んじゃうね」
ゾンビのHPと防御力はとにかく薄い。
だからどんなにゲームを始めたばかりのプレイヤーでも条件次第では切り抜けられるのだ。
「後は聖水」
「聖水はアンデッド系のモンスターには効果抜群。困った時は聖水を使って一掃しよう!」
聖水を好んで使うプレイヤーはそう多くない。だから腐りがちなアイテムだ。
けれどここで意味を持たせることに成功する。
これできっとゲームがまた深くなる。
アイとナミダは動画の最後でこう伝えた。
「PCOはどんな相手にも勝てる可能性があるのが魅力です」
「逆言えばどんな相手にも負ける可能性があるのも必至」
「VRを活かして変幻自在のプレイングで勝利を掴み取ろう。それではここまでご視聴ありがとうございました!」
「またね」
アイとナミダは手を振っていた。
これにて動画は終了。ゆっくりフェードアウトして、画面は真っ暗になるのだった。
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