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第7話 そして《死神》に認められる

認められると、何があるのか?

果たして、死の淵で何を見るのか?

 熱い。苦しい。痛い。

 三拍子揃っての地獄が、グリムの体と精神を否応なく襲う。


(はぁはぁはぁはぁ)


 声も出せない。感情も出てこない。

 不思議と時間が遅くなったように感じ、あらゆるものが一定の速度を刻んで遅くなる。

 そんな訳の分からない状況に落とし込まれたグリムはボロボロだった。


 さっきから何が起きているのか分からない。

 大鎌に切り裂かれ、痛みが全身を駆け抜けたのは分かる。

 だけどまだ生きていた。

 如何やらHPバーに変化がないようで、つまりダメージが無いことを表している。


(な、なんで……ぐはっ!)


 考えようとすると頭が痛くなる。

 鋭い痛みが脳天をかち割ろうとする。

 気持ち悪くてもう精神が保たない。

 そんなギリギリの中、グリムはふと考えてしまう。


(なんで死なないんだ?)


 痛みが襲っているのは分かる。

 だけど決して耐えられない訳じゃない。

 あくまでもゲーム内のシステム的なさそうで、脳にダメージを受けたことを伝えているにすぎない。

 しかしながらこの痛みはそう言ったものではない気がする。もっと悍ましくて、別ベクトルの痛み。

 そう、心の痛みだ。


「心の痛み?」


 そう口にした途端、痛みが少し和らぐ。

 何故かは分からないが、正体に気が付いた途端に心が軽くなったのだ。

 それから徐々に視野が広がり、自分が大鎌に切り裂かれたのは変わらないが、グリム・リーパーの靄の中に閉じ込められていることに違和感を覚える。


「苦しくない?」


 息苦しいのかと思った。

 しかしまるで苦しくなく、呼吸もちゃんとできた。

 おまけに足も一歩前に踏み出せば、簡単に靄の中から抜け出ることができる。

 あまらにも不思議な感覚に、グリムは不穏に思ってしまったが、それでもグリム・リーパーの靄から抜け出した。


「よっと。普通に出られちゃった?」


 靄の中から出たグリムは自分の体に異常が無いことを確認する。

 すると背後にはグリム・リーパーがいる。

 大鎌を振り上げ、グリムのことを再び心から抉ろうとしていた。


「危ないな。よっと!」


 バックステップを取りつつ距離を稼ぐ。

 グリム・リーパーは振り下ろした大鎌を躱されてしまい焦るのかと思いきや、まるで表情を変えない。それもそうだ、相手は骨だから表情筋があるはずもない。

 笑いもしない、泣きもしない、ましてや苦しむ姿を見せず、虚にも大鎌を振り下ろすだけのマネキンと同じだった。


「もしかして、攻撃しないのが良いのかな?」


 ここまで来たら攻撃するために接近する方が危険だと気が付く。

 グリムは距離を取ったまま、グリム・リーパーの大鎌の射程距離に入らないようにする。

 しかしグリム・リーパーは動かずに、金宝箱の前を陣取ると、グリムのことを誘っていた。


「来いってこと? いや、まさかね。そんなはずないよね」


 グリムは逆に考えてみた。

 グリム・リーパーに攻撃する気なんて更々無いのではないか。

 よく考えてみれば、大鎌の振り加減も向きも全く同じで、ダメージを与えることも受けることもない。

 感じるのは精神的な形のない痛みで、もしかしたら何もしなければ良いのではないかと、グリムはついつい試してみたくなった。


「やってみよう」


 グリムは一歩前に出た。

 自分なら大丈夫だと、MENのパラメータが異常に高いことに賭ける。

 ゆっくり一歩ずつ確実に距離を縮める。

 するとグリム・リーパーは当然のことながら大鎌を振り上げて、近付けば殺すと体現する。


「そんなの効かないよ」


 だけどグリムも覚悟は決まっていた。

 その時はその時と腹を括り、グリム・リーパーの目の前にまでやってくると、大鎌が振り下ろされた。


 グサリ!


 グリムのことを大鎌は無慈悲に切り裂く。

 しかしグリムの予想通り、ダメージは受けていない。HPがミリも削れていない上に今回は痛みもなかった。

 まるで何も感じることはなく、透明な水の中に手を潜らせたような感覚に襲われる。

 つまりは、大鎌が仰々しい効果音でグリムのことを切られたと錯覚させただけで、実際には空を切っていた。


「正体が判ったら怖くないよ」


 グリムはグリム・リーパーに手の内を明かしたことを伝える。

 何処に耳があるのかは分からない。もしかしたら伝わっていないかもしれない。

 それでもグリムは淡々と呟くと、靄の体を突き破り、近宝箱の目の前に来た。


「ふぅ。やっぱり本体は無かったね」


 グリムは息を一つついて胸を撫で下ろす。

 すると背後から声がした。


「見事だ」


 まるでグリム・リーパーに認められてみたいで薄気味悪かった。

 さっきまで一言も発しなかったモンスターの声を聴き、グリムはゾッとしつつも振り返る。

 しかしグリム・リーパーの姿は影も形もない。

 靄のように一瞬で消えてしまい、そこには何も残されていないのだった。

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