第244話 龍が出たらしい
あれ、こんな筈じゃなかったのに?
「へぇー、そんな噂が?」
「うん、N:ブルはなにか知ってる?」
「私は知らないわ。でもそれは大事になるかもしれないわね」
N:ブルと同僚の女性NPC、アン:Gerは雑談をしていた。
小声で他の職員には聞こえない程度だ。
何やら噂にしているのか、周りの目を気にしていた。
「N:ブル。依頼の受理をお願いしたいんだけど」
「グリムさん……丁度良い所に」
「ん? なんだろう、嫌な予感がするんだけど」
グリムは険しい表情を浮かべた。
それはN:ブルの顔色が原因だ。
おまけにアン:Gerもその場を退散してしまう。
何やらありそうな空気が漂って仕方が無い。
「本日はどのような御用件でしょうか?」
「えっと、依頼を受理して貰いたいんだけど」
「依頼ですか……はい、畏まりました」
よかった。業務はしっかりとしてくれるらしい。
DはN:ブルに依頼書を手渡す。
受取ったN:ブルは目を通して確認をしていると、何故か腕が降ろされる。
空気が変わった? いや、変わりそうで、怖い。
「(パチン!)そうです、皆さん。実は気になる話があるんですが」
N:ブルはパチンと手を合わせた。
明らかに空気が変わる音がした。
グリム達は背筋をピンと伸ばす。
「気になる話ですか?」
「なになにー、面白い話?」
グリムは首を捻り、フェスタは楽しそうにする。
興味が湧いてしまうと、N:ブルは小さな声で唱える。
「それはどうか分かりませんが、どうやら龍が出たらしいですよ」
「「「龍!?」」」
それはテンションが上がる話だ。
流石にグリムも声を荒げると、N:ブルは唇の前で人差し指を立てた。
「シィー」と内緒の話にする。
「大声を出さないでください。この辺りで龍が現れることは稀なんですから」
「ごめん、N:ブル。それにしても龍なんてまた突飛だね」
「ええ、私も同僚から聞いて驚きました。なんでも、フォンスから程近い森の中に、龍の影を見たとかで、この後調査部隊を派遣するか議論に掛ける所なんですよ」
如何やら龍が現れるのは珍しいらしい。
それこそドラゴン系のモンスターなら、噂になってもおかしくない。
一度は見てみたい、戦ってみたいと思うプレイヤーも多いだろう。
けれどギルド会館としては、真偽を確かめる必要があった。
不確かな情報に踊らされるようなことがあってはならない。
貴重な戦力を割くのだから当然で、これから議論に掛けられるらしい。
「調査部隊? それって」
「当ギルド抱えの人達です。所謂専門職の冒険者と言えばいいのですかね?」
しかもこの流れ、調査部隊はプレイヤーじゃない。
もしかしたら運営が出て来るかも? それともNPCの中でも突出して強いとか?
様々な憶測が湧く中、フェスタは単純明快。
笑みを浮かべ、ワクワクが止まらなかった。
「調査部隊かー。いいなー」
「まだ派遣するかどうか決まった訳じゃないですよ。ですので、今は調査中なんです」
「調査部隊を出すかどうか、議論するための調査ってことかな? まどろっこしいね」
「そうですね。ですので残業が増えそうなんですよ」
N:ブルは嫌気の刺した顔をする。
落ち込んで溜息を付くと、チラチラ視線を飛ばす。
何かを期待している? まさかそんな筈ないよねと、グリムは言いたい。
「なにかな? 期待した目をしているけど」
「グリムさん達、〈《アルカナ》〉は時間ありますか?」
「……無いよ」
「無いんですか? それは残念ですね」
N:ブルは何故かグリム達に視線を右往左往させる。
本当に期待でもしているのだろうか?
グリムは怪しんでしまうが、ここは否定しておく。
自分達も忙しい、予定があるとアピールした。
「残念って? これから依頼書を受理して貰おうと……」
「龍の存在を確認して来てはいただけませんか?」
「「……ん?」」
グリムとDは固まってしまった。
今のは聞き間違いだろうか? いや、きっとそうに違いない。
ギルド側が、ポッと出の新米ギルドにそんな大それた話をする筈がない。
きっと何かの気まぐれか、愚痴のつもりで吐き捨てたのだろうと勝手に解釈する。
「ごめんね、N:ブル。私達も予定があって」
「そうですよね。あの、N:ブルさん。依頼の受理を……」
「(ドン!)今なら、私達も目を瞑ります。なにせ依頼ではありませんからね」
グリムとDはペースを崩さない。
N:ブルには踊らされないまいとかたくなな態度を取る。
するとN:ブルも黙っていない。カウンターをドンと叩き、ギルドの職員としてやってはいけないことをした。
「依頼でもないんだね」
「はい、依頼にはまだできません。あくまでも調査の段階ですから」
つまりこれは噂も噂だ。
グリム達の取ってはメリットはほとんどない。
デメリットも無いと言えば無いのだが、下手に期待されても困る気がする。
「私は皆さんに期待しているんですよ」
「勝手に期待されてもね」
「ギルドからの期待に応えておけば、後々有利に働くと思いますが?」
「職権乱用だね」
N:ブルの提案はあまりにも職権乱用が過ぎた。
正直、引き受けると後で面倒な事になりそう。
グリムの聡明な頭脳が、そこまで予測する。
「お願いします、龍を探してきてください」
N:ブルは頭を下げた。
今にもカウンターに額をぶつけてしまいそうな勢いだ。
どれだけ残業が嫌なのか。分からなくはない。
「頭を下げられてもね……」
「報告次第では、恩赦も出ます」
「確実性が無いんだけど……」
助けてはあげたい。けれど確実なことが言えない。
だからN:ブルを助けられるか分からないのだ。
そのせいで引き受けるかグリムは迷ってしまい、駄々をこねてしまった。
「ううっ……それで、どうされますか?」
N:ブルは目をウルウルさせていた。
グリム達に視線を配り続ける。
求める答えは決まっている。グリムというよりも、フェスタの興味を惹こうと必死で、流石にフェスタは簡単に釣られる。
「そんなのもちろんさー!」
「フェスタ、ちょっと待って」
グリムはフェスタの早計な対応を阻害。
襟を掴んで引っ張ると、Dを連れて少し離れる。
背中をN:ブルに向け、簡単な話をする。
「なにするの、グリムー?」
「フェスタ、フェスタ的にはどうしたい?」
グリムはフェスタに訊ねた。
ここまでのN:ブルの話を訊いて、如何したいか考えを訊く。
「めっちゃ面白そうじゃんか!」
「そうだね。少し興味はあるよ」
フェスタは瞳をキラキラさせている。
グリムもまた、面白いと感じた。
こんなワクワクする機会、滅多にお目に掛かれないのは確実だ。
「どうしますか、グリムさん?」
「Dはどうしたい?」
Dはグリムに一任した。
しかしグリムはそれを否定。
D自身の考えを尋ねると、怖がる素振りを見せた。
「私は、少し怖いです」
「確かに怖いよね。得体のしれないモンスターだから」
今回のモンスターは恐らく情報が少ないだろう。
そのせいで、目立った情報が得られる可能性は少ない。
相手取るには厄介なのは確かで、グリムはDの意見も汲む。
「正直、依頼でも無いんだ。興味は抱いても、ダンジョンにわざわざ戦いに行く必要は無いかな」
「えー、つまんないのー」
「フェスタ、早計だよ。まだ行かないとは言ってない」
グリムの判断は正しいと思った。
けれどフェスタはつまらなそうに唇を尖らせる。
眉根を寄せ、グリムのことをフェスタは見つめると、グリム自身言葉を飛ばす。
「N:ブル、もう少し情報が欲しいんだけど、なにかないかな?」
「そうですね。これ以上は、まだなんとも」
「なるほどね。情報は得られないか……」
グリムは追加の情報をN:ブルに求めた。
しかしギルド側が把握している情報は今の所ない。
今回の情報、初出はギルドからだ。つまりは公式サイトを見ても、プレイヤー間の情報でも得られるものはあまりないだろう。
「グリムー」
「はいはい……ちょっとだけ見に行こうか」
フェスタはグリムを急かした。
期待を自然と寄せると、グリム自身も折れる。
否、自分自身の言葉を決め、行動することを決めた。
「行くんですか、グリムさん!?」
「興味はあるからね。Dはどうしたい?」
グリム自身好奇心を抱いていた。
そのせいか、今回は否定的にはならない。
むしろ興味本位に片足を突っ込むと、Dに対して申し訳なくなる。
そんなグリムの顔色を窺ったからか、Dも勇気を出してくれた。
「えっと、その……分かりました、行きます!」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。無理はしない、無茶はしない。いいね」
「OK。それじゃあ早速行ってみよう―!」
グリム達はフェスタの号令に合わせる。
とりあえず武器を整え、アイテムを揃える。
早速目指すダンジョンに向かうことにすると、目的の龍が本当にいるのかどうか、楽しみになっていた。
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