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第242話 龍でも馬でも無く、リュウマ

何故この名前にしたのか。

今となって思えば、何の所縁もない。

「うっし。いや、すまんかったな」

「悪いと思ってないでしょー」

「よぉ分かったな。儂は悪いとおもっとらん。けど、助かったとは思っとる。だから助かった、あんがとな!」


 男性はおにぎりを食べ終わった。

 それから体力が回復したので立ち上がると、頭をゴシゴシ掻く。

 何だか豪快な男性だ。そう思ったグリム達は何か言い返す気もなかった。


「行き倒れている人を初めて見ました」

「ん? 儂はしょっちゅう行き倒れるぜよ」

「ダメじゃんかー」

「がーはっはっはっ! まあそんなこと言わなんとな。それよりおまんらは何者ぜよ?」


 確かに自己紹介をしていなかった。

 グリム達は名前を問われたので、コホンと咳き込む。

 まさかこのタイミングでとは思わなかったが、一応答える。


「私はグリム、こっちはフェスタとD。〈《アルカナ》〉のメンバーだよ」

「〈《アルカナ》〉? 悪いが、聞いたこともないギルドぜよ」

「この前作ったからねー。でもこれから伝説になるよ!」

「ならなくてもいいけどね」


 フェスタは自信満々に宣言した。

 多分だが、面白がっているだけだ。

 けれどグリムがマジになって否定すると、「ノリ悪いなー」と怒られた。


「おまんら面白いな」

「それはどうも。それで、貴方は?」


 今度は男性のことを知りたい。

 これだけ豪快な男性で、きっとこの辺りでは有名な筈。

 そこまで噂は聞かないけれど、特徴的な格好もしているので、もしかするとフェスタなら引っ掛かるかもしれない。


「儂か? 儂の名はリュウマぜよ!」

「リュウマさん?」

「さんは要らんぜよ。儂はリュウマ、龍でも馬でもなく、リュウマぜよ!」

「「「……」」」

「ここ、笑う所なんだけど」


 グリム達はノリ損ねてしまった。

 リュウマは渾身の自己紹介ギャグを披露したつもりだろう。

 けれどグリム達には寒さも伝わらず、無言と言う最悪のスルーを見せた。


「あっ、ごめんなさい」

「謝らんでくれ。儂が惨めに見えるぜよ……」


 別に惨めには見えていない。

 悲しくは映ってしまうと、グリム達は苦笑いを浮かべた。

 ますますリュウマの心を冷がらせると、頭を抱えて叫んだ。


「もう止めてくれぜよ!」


 何だか大の大人が慌てふためく姿は滑稽で面白い。

 普通ならクスクス笑って場を沸かすのだろう。

 けれどそれができるのはフェスタだけで、グリムもDも真面目過ぎたせいか、場の収拾を図ろうとする。ここは一旦話の趣向を変えることにした。


「それにしても、リュウマは変な語尾を付けるんだね」

「ん? そうか」

「坂本龍馬をイメージしているのかな?」


 ズバリ、リュウマと言う名前を掛けているのは明白だ。

 そのせいか、古典的な坂本龍馬のイメージを掛け合わせている。

 グリムの読みは当たっていたのか、リュウマは決して顔色を曇らせること無く、堂々と口走る。


「そうやぜ。この手のオンラインゲームはキャラ付けが大事やさな!」

「そんなことは無いと思いますけど?」


 早速リュウマの考えをDが否定する。

 眉間に皺を寄せ、同意しづらい話になっていた。

 もちろんグリムもフェスタもキャラ付けには興味が無く、リュウマの考えも分からなくはないが、賛同は決してできなかった。


「儂はそう思ってプレイしてるだけやぜ。本名と被せてなにかいいものは無いかと探してた時、坂本龍馬さんが思い当たったぜよ。いやはや、我ながらえらいモチーフを思いついたぜよな」


 自信満々に語ってくれた。

 単純と言えば単純なのだが、それだけキャラを大事にしているんだろう。

 実際、格好も江戸後期から明治時代をイメージした着物姿。その上に甲冑を着込み、腰には刀を差している。拳銃が無いのが些か味気ないのだが、それでも格好は付いていた。


「あはは、色んな考えがあるんだねー。でも面白いよー」

「やっぱりそうやな!」

「にしては中途半端な気も……まあいっか」


 恐らくだがリュウマは別に土佐の出身者じゃない。

 そのせいか、土佐弁の口調がやや中途半端。

 変に土佐弁を齧っているせいか、聞いているだけで頭がおかしくなる。


 現に他の方言が混ざっていた。

 多分だが、嫌いな人がトコトン嫌いだろう。

 けれどグリム達は気にしないことにし、リュウマの話を軽く流した。


「それにしてもおまんらがおって助かった。この例は必ずさせてもらうぜよ」

「別に大丈夫だよ」

「そうはいかんぜよ。人との縁は大事にする、それもオンラインゲームの嗜みぜよ!」


 この辺りはかなり律義で、人間ができ上がっていた。

 ただただ豪快なだけじゃない。

 胸を広く貸すと、グリム達に感謝の意を込める。


「それじゃあまた今度お願いするよ」

「分かったぜよ。がーはっはっはっ。では達者でな!」


 リュウマは手首を捻って別れを言う。

 それから踵を返すと、まるで振り返る様子は無い。

 グリム達を置いて行くと、人混みの中へと去っていく。


「行っちゃったねー」

「そうだね。嵐の様だったよ」


 例えるなら大海原を航海している際、突然吹き荒れた嵐に飲み込まれたみたいだ。

 グリムの詩人な例えはまさしく合っている。

 フェスタもDもコクコクと首を縦に振ると、リュウマに煽られた。危く転覆する所で、とてもじゃないがヒヤヒヤした。


「なんだか凄く豪快な人だったね」

「はい」

「豪快っていうより雑だけどねー」


 確かに一言で言い表してしまうなら何処までも雑だ。

 けれどそれが個性であり、魅力でもある。

 遠ざかるリュウマの背中を追いかけることはしないが、その広い背中に海を見た気がした。まあ、実際には関係無いのだろうが。

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