第241話 行き倒れ武士(※二章の続き)
朴念仁。
グリム達は、デンショバトへと向かった。
使い道のないアイテムを買い取って貰おうと思ったのだ。
しかし、いざやって来たはいいものの——
「あれ、closeになってる」
デンショバトにやって来たものの、今日は閉っていた。
如何やら休みのようで、グリム達は取り越し苦労になる。
「せっかく来たのにね」
「そうだね。でも開いていないのなら、仕方ないよ」
アポイントメントもなにも取っていない。
グリム達が勝手に来ただけに過ぎなかった。
だからこそ、グリム達は店の前で立ち尽くすのを辞める。
代わりに踵を返して立ち去る。
今日はもうログアウトするのがベストだった。
「それじゃあ今日は解散しようか」
「そうだね」
「はい。少し寂しいですけど、お疲れ様でした」
グリム達は手頃な場所でログアウトしようとした。
トコトコ歩いて回ると、不意に視線が捉える。
「ん?」
「どうしたの、グリム」
「いや、私のみ間違いならいいんだけどね、あそこ……」
グリムは指を指した。
道端に横たわる男性の姿がある。
日陰でピクリとも動かずで、グリムは目を擦る。
「わ、私にも見えます! 私にも見えますよ、グリムさん、フェスタさん!」
「本当だね。ってかさ、あれヤバくない?」
フェスタが言わなくてもヤバいのは確かだ。
グリム達は駆け寄ってみると、男性は生きている。
如何やらプレイヤーのようで、何か原因でもあるのか、動けなくなっていた。
「大丈夫? なにかあったの?」
グリムは声を掛けてみる。
しかし返事は無く、「うー」と唸っている。
これは相当だ。何処か武士のような恰好をした男性を近くの建物を背にして起こすと、死んだ目をした男性に耳を傾ける。
「おーい、大丈夫ー?」
「返事をしてください。お願いします」
フェスタとDが声を掛けた。
グリムも口の辺りに耳を近付ける。
トロンとした目には覇気が無く、運営に通報した方がいいかと思う。
「どうされたんでしょうか、グリムさん!」
「そうだね。落ちたようには見えないけど……」
実際、この男性プレイヤーは中身がある。
つまり声が聞こえている訳だ。
にもかかわらず動かない。と言うことは……
グー!
「「あっ!」」
「やっぱりなにかあった」
男性プレイヤーから軽い音がした。
空気が抜けるようで、丁度腹から聞こえる。
如何やらお腹が減っているようで、空腹ゲージが底を尽いていた。
“空腹ゲージ”とは、隠しパラメータ。
普通にお腹が減っているか、いないかを数値で表す仕様だ。
これが底を尽くと、現実よりも体に影響が出る。
運営の配慮なのだろうが、ゲーム内でも現実でも、食事をしっかり摂れというメッセージだった。
「空腹って、お腹減ってるだけー?」
「そうだね。いわゆる、行き倒れって奴かも」
「なーんだ、つまんないの。心配して損しちゃった」
「そんなことは言わないであげようか。確かインベントリにおにぎりが入ってた筈……」
グリムはインベントリを探した。
正直、荷物を一杯にしはしたくないが、軽食は入っている。
その中でも、おにぎりは非常に腹持ちがいい。
空腹を凌げる、日本人の朝ご飯だ。
「食べれます?」
グリムはおにぎりを手渡す。
綺麗な三角形の形をしたおにぎりだ。
確か中身は鮭だった筈。味付き海苔まで巻かれ、本当に美味しそうだ。
「うわぁ、美味しそう。グリムが握ったの?」
「いいや、買って来たものだよ」
「なーんだ、グリムが握った方が美味しいのに」
「そうなんですか?」
「うん。グリムって、なんでも完璧にこなす、天才だからね」
「囃し立てないで欲しいな。それより、食べれるかな? うわぁ!」
グリムがおにぎりを近くに寄せると、男性の手が勝手に動く。
もはや本能と言うべきか、おにぎりを奪い取り、口の中に放り込む。
いっぺんに食べなくてもいいのに、と思ったのも束の間、思った通りのことになる。
「むっ!? むー、むーん!?」
男性は喉を詰めてしまった。
胸を叩き苦しそうにしている。
早く食べても損なだけ。よく噛んで食べないと消化にも悪い。
グリム達は背中を叩いたり、擦ったりすると、男性はなんとか窒息せずに済む。
「ぶへっ、いや、助かった助かった。危く死ぬところだったわ」
男性は目を見開いた。
かっぴらき、涙を流していた。
苦しんでいたのだが、何とか回復すると、男性は呼吸ができることを喜んだ。
「大丈夫かな?」
「本当にすまんかったな! それと助かった」
男性は感謝したのか、グリムの手を掴んだ。
ブンブン振り回すと、グリムは表情がぎこちない。
後ろでは何故か不服そうなDの顔がある中、男性は頭を掻く。
「まさかこんな時に限って、腹が減るとは思わんかったぜよ。いやー、人間なにが起きるかわからんな!」
男性は呑気に笑っていた。
地面に胡坐を掻き、一人でパンパン手を叩いている。
「グリムー、明らかに変な人だよ?」
「一般的にはそうだね。でも、これも多様性だよ。尊重しないと」
「でもグリムさんの手を握るなんて、許せないです。おにぎりを食べて、べたべたになった手で」
「D、私は気にしないよ。特に変な気も起こさない……D、怖いな」
何故かDに睨まれるグリム。
その顔色は真っ赤に腫れていて、グリムは困り、フェスタに助けを求めた。
しかしフェスタは分かっていた。乙女心が分かっていない、グリムが悪いとしか言えず、当の本人である男性は、何が何やら分かっていないらしい。
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