第238話 美味しいリンゴ
ゲームの中とはいえ、よく虫が食べれるね。
文化の違いだけど、私は無理です。
「ってことがあったんです」
Dはグリム達に事の顛末を報告した。
初めてソロで引き受けた依頼だったが、無事に上手く行った。
のだろうか? 色々と不可解な点は多い。
それでも、グリム達は気に留めず、Dの頑張りを讃える。
「そうなんだ。D、一人で依頼をこなして偉いね」
「あ、ありがとうございます、グリムさん」
グリムは何の気なしにDの頭を撫でた。
ソッと柔らかく撫でると、Dの顔が赤くなる。
恥ずかしいのだろうか? グリムはまた勘違いをする。
「ところでD-、このリンゴは?」
「はい。アップルビーです!」
フェスタはテーブルの上に置かれた黒焦げのリンゴを指さす。
頭と脚、針が抜き取られたアップルビーだ。
食べやすいように加工はされているが、それでも真っ黒で食べる気は無くなる。
「凄い色ね」
「はい。ですが、とても美味しいですよ?」
ミュージュは嫌厭していた。
真っ黒なリンゴを見て、手が止まってしまう。
しかしグリムはそんなミュージュの手の中に、アップルビーを押し当てた。
「せっかくDが持ち帰って来てくれたんだ。食べようよ」
せっかくDが持ち帰ってくれたものだ。
食べない訳にはいかないと、圧力を掛ける。
もちろんそんな心配は要らず、ミュージュは受け取った。
「仕方が無いわね」
「それじゃあ食べるね、いただき」
「「「ます」」」
グリム達は手にしたアップルビーを一口齧る。
少し時間が経っているせいもあり、品質が下がっている。
結果的に硬めになってしまったが、グリム達は一口齧ると、目を見開いた。
「なによこれ、凄く甘いわ」
「うんうん。蜂蜜みたいだねー」
「そうですよね。凄く美味しいですよね!」
ミュージュもフェスタもご満悦だ。
齧った瞬間、口の中に広がる芳醇な甘み。
香りもさることながら、リンゴの酸味と蜂蜜の甘みが見事に絡み合う。
濃厚でネットリしているが、それが逆に旨味を増す。
普通のリンゴでは決して出すことのできない、不思議な感覚だった。
「凄いね。このリンゴ、美味しい」
「グリムさんに満足して貰えて嬉しいです!」
Dは何よりも、グリムに喜んで貰えてご満悦だ。
眼なった甲斐が出ると、ニコニコ笑顔を浮かべる中、ふと頭の中にトラの姿がチラつく。
「あのグリムさん、私を助けてくださった、虎さんのことなんですけど?」
「ん? トラがどうかしたの?」
「はい。アレはプレイヤーだったんでしょうか? それとも、モンスターでしょうか?」
未だに真偽は不明だった。
とは言え、Dが助けられたことは事実。
明らかに意思疎通が可能な知能を有していて、プレイヤーの可能性が高い。
「Dはどう思う?」
この期に及んで、グリムはDに訊ねた。
結局の所、Dが如何思っているのか。
所詮はそこに注力されると、Dは迷う。
「私は……ですか?」
「そうだよ。Dはどう思うのかな?」
あくまでも知りたいのはDの想い。
そこから発せられる言葉は仮に虚構だとしても真実。
グリムはその意図で伝えると、Dは考えた末に、答えは一つしか残っていない。
「私は、プレイヤーだと思います」
「そうかい。それじゃあプレイヤーなんじゃないかな? 実際、高い知能を有していた時点で、気にはなるからね」
Dは自分で答えを見つけていた。
あくまでもグリムはその仮説を後押しするだけ。
補足説明を加えると、より一層信憑性を高める。
「とは言え、仮にモンスターだったとしても、友好的に接してくれた。それが今だけの関係性だとしても、その事実は変わらないよ」
仮にモンスターであり、お互いの目的が一致したに過ぎない関係。
そうだとしてもだ。一時の間、互いに共闘をし助け合いを選んだ。
その事実は決して変わることが無いと伝えると、グリムはにこやかな笑みを浮かべる。
「グリムさん……」
「そんなことよりも、Dも食べたらいいよ」
グリムはDにアップルビーを手渡す。
ソッと小さな手のひらの中に黒いリンゴが乗る。
確かにこの見た目は結構厳しい。それでもグリムから手渡されただけで、Dの気持ちは固まる。
「は、はい、いただきます!」
Dはグリムから手渡されたアップルビーを齧る。
知っている味。これ以上欲望に飲まれてはいけない甘さ。
それでもDは噛み締めると、目の前のグリムの顔にドキッ! とする。
「美味しい?」
「はい、とっても美味しいです」
グリムはDに語り掛ける。
もちろん、Dがアップルビーの味を知っていることは分かり切っている。
けれどDはグリムから手渡されたことが最大のトッピングになると、この間よりも美味しくなったような気がした。そう、あくまでも気がしただけだが、それで充分だった。
「なにあれ? 百合?」
「あはは、グリムにはそんな気持ちないだろうけどねー」
ミュージュとフェスタはグリムとDのやり取りをジッと見ていた。
忌まわしそうではなく、寧ろ遊んでいる。
冒険者としてグリムの疎さを嘆きながらも、その手と口はアップルビーに夢中だった。
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