表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/255

第238話 美味しいリンゴ

ゲームの中とはいえ、よく虫が食べれるね。

文化の違いだけど、私は無理です。

「ってことがあったんです」


 Dはグリム達に事の顛末を報告した。

 初めてソロで引き受けた依頼だったが、無事に上手く行った。

 のだろうか? 色々と不可解な点は多い。

 それでも、グリム達は気に留めず、Dの頑張りを讃える。


「そうなんだ。D、一人で依頼をこなして偉いね」

「あ、ありがとうございます、グリムさん」


 グリムは何の気なしにDの頭を撫でた。

 ソッと柔らかく撫でると、Dの顔が赤くなる。

 恥ずかしいのだろうか? グリムはまた勘違いをする。


「ところでD-、このリンゴは?」

「はい。アップルビーです!」


 フェスタはテーブルの上に置かれた黒焦げのリンゴを指さす。

 頭と脚、針が抜き取られたアップルビーだ。

 食べやすいように加工はされているが、それでも真っ黒で食べる気は無くなる。


「凄い色ね」

「はい。ですが、とても美味しいですよ?」


 ミュージュは嫌厭していた。

 真っ黒なリンゴを見て、手が止まってしまう。

 しかしグリムはそんなミュージュの手の中に、アップルビーを押し当てた。


「せっかくDが持ち帰って来てくれたんだ。食べようよ」


 せっかくDが持ち帰ってくれたものだ。

 食べない訳にはいかないと、圧力を掛ける。

 もちろんそんな心配は要らず、ミュージュは受け取った。


「仕方が無いわね」

「それじゃあ食べるね、いただき」

「「「ます」」」


 グリム達は手にしたアップルビーを一口齧る。

 少し時間が経っているせいもあり、品質が下がっている。

 結果的に硬めになってしまったが、グリム達は一口齧ると、目を見開いた。


「なによこれ、凄く甘いわ」

「うんうん。蜂蜜みたいだねー」

「そうですよね。凄く美味しいですよね!」


 ミュージュもフェスタもご満悦だ。

 齧った瞬間、口の中に広がる芳醇な甘み。

 香りもさることながら、リンゴの酸味と蜂蜜の甘みが見事に絡み合う。

 濃厚でネットリしているが、それが逆に旨味を増す。

 普通のリンゴでは決して出すことのできない、不思議な感覚だった。


「凄いね。このリンゴ、美味しい」

「グリムさんに満足して貰えて嬉しいです!」


 Dは何よりも、グリムに喜んで貰えてご満悦だ。

 眼なった甲斐が出ると、ニコニコ笑顔を浮かべる中、ふと頭の中にトラの姿がチラつく。


「あのグリムさん、私を助けてくださった、虎さんのことなんですけど?」

「ん? トラがどうかしたの?」

「はい。アレはプレイヤーだったんでしょうか? それとも、モンスターでしょうか?」


 未だに真偽は不明だった。

 とは言え、Dが助けられたことは事実。

 明らかに意思疎通が可能な知能を有していて、プレイヤーの可能性が高い。


「Dはどう思う?」


 この期に及んで、グリムはDに訊ねた。

 結局の所、Dが如何思っているのか。

 所詮はそこに注力されると、Dは迷う。


「私は……ですか?」

「そうだよ。Dはどう思うのかな?」


 あくまでも知りたいのはDの想い。

 そこから発せられる言葉は仮に虚構だとしても真実。

 グリムはその意図で伝えると、Dは考えた末に、答えは一つしか残っていない。


「私は、プレイヤーだと思います」

「そうかい。それじゃあプレイヤーなんじゃないかな? 実際、高い知能を有していた時点で、気にはなるからね」


 Dは自分で答えを見つけていた。

 あくまでもグリムはその仮説を後押しするだけ。

 補足説明を加えると、より一層信憑性を高める。


「とは言え、仮にモンスターだったとしても、友好的に接してくれた。それが今だけの関係性だとしても、その事実は変わらないよ」


 仮にモンスターであり、お互いの目的が一致したに過ぎない関係。

 そうだとしてもだ。一時の間、互いに共闘をし助け合いを選んだ。

 その事実は決して変わることが無いと伝えると、グリムはにこやかな笑みを浮かべる。


「グリムさん……」

「そんなことよりも、Dも食べたらいいよ」


 グリムはDにアップルビーを手渡す。

 ソッと小さな手のひらの中に黒いリンゴが乗る。

 確かにこの見た目は結構厳しい。それでもグリムから手渡されただけで、Dの気持ちは固まる。


「は、はい、いただきます!」


 Dはグリムから手渡されたアップルビーを齧る。

 知っている味。これ以上欲望に飲まれてはいけない甘さ。

 それでもDは噛み締めると、目の前のグリムの顔にドキッ! とする。


「美味しい?」

「はい、とっても美味しいです」


 グリムはDに語り掛ける。

 もちろん、Dがアップルビーの味を知っていることは分かり切っている。

 けれどDはグリムから手渡されたことが最大のトッピングになると、この間よりも美味しくなったような気がした。そう、あくまでも気がしただけだが、それで充分だった。


「なにあれ? 百合?」

「あはは、グリムにはそんな気持ちないだろうけどねー」


 ミュージュとフェスタはグリムとDのやり取りをジッと見ていた。

 忌まわしそうではなく、寧ろ遊んでいる。

 冒険者としてグリムの疎さを嘆きながらも、その手と口はアップルビーに夢中だった。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)


ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。


また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ