第237話 ソロで依頼を達成です
Dがついにやりました……って、アレはソロに入るのかな?
「それは大変でしたね」
ギルド会館にやって来たD。アップルビーを納品個数用意し、報告をする。
とは言えその前に、N:ブルに事の顛末を伝えた。
すると如何だ。酷くアッサリとした返答に、Dは怒りを剥き出す。
「大変なんて話じゃないですよ、N:ブルさん」
Dは珍しく声を荒げていた。
それもその筈、本当に大変なことだらけだった。
聞いていた筈の話と全く違っていて、苦戦を強いられたのだ。
「それはこちらのミスでしたね。誤った情報の提供、申し訳ございませんでした」
N:ブルは反省している。
丁寧にお辞儀をすると、Dを恐縮させる。
実際、情報の誤りがあったのは言うまでもない。
けれど、決してN:ブルが謝ることでもない。
誰にだってミスはある。もちろん、高度なAIが搭載されたNPCであったとしても、人間と同じでミスをすることは否めない。
「N:ブルさんが謝らないでください。えっと、その……こういうこともあります」
何だか悪いことをした気になったDは必死に弁明する。
N:ブルは決して悪くないと伝えた。
するとN:ブルは深々としたお辞儀をしたまま、Dに対応する。
「いえ、こちらのミスでもあります。まさか、女王の存在する群れだとは思いも寄りませんでした」
N:ブルは更に反省を重ねていた。
不憫に思ったDは何も言い返せなくなる。
そんな折、気になる言葉が飛び出していた。“女王ハチ”の存在。
ミツバチはモチーフになっているのなら、普通に女王が居てもおかしくはない筈だと、勝手なイメージでDは思い描く。
「えっ? 普通はいないんですか」
「もちろんいますが、攻撃指示まで出す個体は珍しいですね。なにより毒蜜まで出すのは稀ですね」
確かにDと焔虎が相手をしたアップルビーの群れは、かなりの連携が取れていた。
それこそ巧みな攻撃で、何より女王ハチが強かった。
完全に間合いを読み切っていて、狂わせられなければ、負けていたのは確実だ。
「それじゃあ、かなり強敵だったんですね」
「そうですね。そうなります」
つまり勝てたのは本当に奇跡だったのではないだろうか?
Dは改めてそう思うも、ここは奇跡を手繰り寄せて、必然に変えたと思い込み。
そうでもしないと、焔虎に悪い。確実にプレイヤーで、ここでの発言を、聞いているかもしれない。
「それにしても、炎を纏った焔の虎ですか。気になりますね」
N:ブルは話題を延長させた。
それもその筈、今回の依頼で一番気になるのはまさにそこだ。
Dは心当たりがないのか、ギルド職員であるN:ブルに訊ねた。
「あのN:ブルさん。個人情報の取り扱いは……」
「固く禁じられております」
「そうですよね」
分かっていたが、守備は固い。
そう簡単に焔虎が誰なのか、訊ねることは出来ないらしい。
ここは押し通すようなことはしない。Dは謙虚に慎む。
「でも、本当に助かったんです。あの虎さんが居なかったら、私は今頃どうなっていたことか……」
考えただけで、ゾッとしてしまう。
身震いを軽くすると、N:ブルは考える仕草を取る。
もしかすると、ギルド会館が取り扱っている個人情報の中に、焔虎に関する記述は無いのかもしれない。
「どうしたんですか、N:ブルさん?」
Dは気になってしまい、余計なことではあるが訊ねてしまう。
するとN:ブルは「いえ」と話を誤魔化さない。
寧ろ「もしかすると」と、Dの興味を誘い出す。
「もしかして、誰かに心当たりがあるんですか?」
「Dさん、食い気味ですね」
「気になるんです。私を助けてくれた虎さんの正体が誰なのか……あっ、でも。本人が嫌なら別に大丈夫です。そこまで迷惑になるような真似はしません」
Dは自分の立場を存在を弁えていた。
他人には他人なりの信念がある。
それを懸念し損ねて、痛い目を見るのは嫌だ。
今までもこれからもDは謙虚に慎んでいた。
「いい性格をしていますね」
「どういう意味ですか?」
N:ブルは含みを持たせていたが、Dのことを褒めた。
するとDは自分が何かしたのでは? と不安になってしまう。
その辺り全てがDらしい。そう思えば思う程、Dのことが可愛く見え、つい笑ってしまった。
「失礼しました。ですがDさん、その焔虎の正体は、案外Dさんにかかわりがあるかもしれませんよ?」
「えっ!?」
「もちろん、Dさん本人は知らないかもしれませんがね」
余計に謎を増やす発言に、Dの頭がパンクしそうになる。
中々見られない光景だが、頭から湯気が出そうな程、一度に情報が詰め込まれる。
考える容量が一気に狭まると、Dはポカンとしてしまった。完全に放棄している。
「どういう意味ですか、それ?」
「さて? 私にはなんとも言えません」
N:ブルはここまでのヒントを出していた。
それでも、その先には歩を進めない。
じらしているのかと、Dはムキになる。本当に珍しかったが、とても可愛くて印象深い。
「知っているんですよね、N:ブルさん」
「仮にそうだとしてもですが、お教えすることはできません」
「どうしてですか!?」
「規則だからです」
何故かN:ブルは教えてくれない。
おまけに“規則”と言う言葉を強調する。
明らかな意図を感じると、Dは考える。
「規則……ってことは、そう言うことですか?」
「Dさんがどうお考えかは分かりませんが、ご想像にお任せ致します」
何となく規則の流れで察する。
Dは決してバカではない。
恐らくだが、ギルド会館に関係の有る人物。
答えに近付いてはいる筈。
それでも頑なに口を割らないのは規則だから。
もちろん、ギルド会館としての厳格な秩序に基づいているからで、Dは深追いしない。
これ以上の追及はお互いのためにならないし、グリム達に迷惑が掛かるとDは考えた。
「ふぅ。分かりました、そうしますね」
「はい。ですが、本当にご無事でなによりでした」
結局は上手い具合の流されてしまった。
とは言え、Dの中で答えは見えた。
それだけで今はいいとして、改めてN:ブルは本心から無事を確認で来て安堵する。
「えへへ、でも、もうソロで依頼を受けるのは懲り懲りです」
結局の所、Dにはソロよりもチームの方が似合っている。
自分の戦い方と向き合えば向き合う程、これが正しい選択だと思う。
Dはグリム達とギルドを作ったことを胸に抱くと、それが自分の一つの居場所だと改めて強く理解した。
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