第235話 焔と光が混ざり合って
女王蜂を女王ハチにするの、地味に面倒。
「ううっ……」
意識を飛ばし層になっていたD。
顔を地面に押し付けると、そのままグッタリしている。
甘さの暴力が凶器になって、Dのことを蝕んでいた。
「このままじゃ、マズいです、よね。早く起き上がらないと……」
Dはそれでも耐えていた。何とか意識を飛ばさないでいた。
けれど体が動かない。鼻が曲がってしまいそうだ。
「この甘さ、なんとかして……(スン。スンスン……)ん?」
そんな中、Dはあることに気が付いた。
何故か強烈な甘さを感じない。
そのせいか、先程まで苦しんでいたニオイから解放されていた。
「あれ? これは、どういう……」
Dにはサッパリ分からなかった。
けれど周囲には目立ったものはない。
一体何が原因なのかと下を見ると、灯台下暗し。
D自信を助けてくれたのは、すぐ近くというより、目の前にあった。
「もしかして、草ですか?」
如何やらニオイを消してくれたのは、地面に生えた草だった。
どれも雑草みたいだけど、雑草特有の臭みがDを窮地から救ってくれた。
甘さを臭みで打ち消し合い、何とか呼吸ができるようになると、倒れていた体を無理矢理起こした。
「あのまま倒れたのがよかったんですね。ううっ、立ち上がると苦しいです」
けれど立ち上がる訳にも行かなかった。
強烈なニオイがまだ充満していて、甘くて臭い。
矛盾した感想を抱く中、膝立が精一杯だった。
「それでも、ピンチなままですよね。一体どうしたら……」
動けるようにはなったが、だからと言って窮地を脱してはいない。
Dは未だに追い詰められている事実を受け止める。
この状況で如何すればいいのか、足搔けばいいのか、女王ハチを凝視して観察する。
「せめて、動きを止められればいいんですけど……」
せめてもの救い。それは未だにMPが残っていること。
それ以上にできることは無く、Dは糸口を見つけようと必死だ。
けれど高い位置でホバリング中の女王ハチには打つ手がなく、Dは苦しい顔をした。
「あっ、そう言えば。他のアップルビー達には効きましたよね? もしかして、女王ハチにも効くんじゃないですか?」
他のアップルビー達には魔法が効いた。
Dが使える魔法は、光属性。その中でも威力は弱め。
それでも効き目があったのなら、単純に有効射程範囲を出ていただけの女王ハチにも利く筈だ。
「試してみるしかないですよね。そのためには……」
ここまで来たのだ。何をやってもいい。
Dはもう一度魔法を唱えてみることにしたけれど、そのためには足りないピースがある。
ふと視線を苦しみ藻掻いている焔虎に向けると、一か八かの作戦を伝えた。
「虎さん!」
Dは焔虎に叫んだ。
一瞬動きを止めて、Dのことを見た気がする。
それを受けて、Dはインベントリからアイテムを取り出す。
「これを使ってください!」
Dが投げたのは小瓶の中身だった。
液体が周囲一帯に巻かれると、焔虎は警戒する。
けれどそんな心配は無くて、液体が地面に撒かれると、そのニオイに焔虎は我に返る。
「メラド……ラァ?」
「このアイテムは、ニオイを打ち消す効果があるんです。これで動けますよね?」
「メラド―ラァ!」
焔虎は高く吠えた。Dの言葉に応答する。
如何やら動けるようになってみたいで、Dは一安心。
少し前にグリムが買い込んだアイテムを貰っていたことで、窮地を脱することに成功した。
「ありがとうございます、グリムさん」
Dは凄く気持ちが温かくなった。
グリムから貰ったものが役に立ってくれて嬉しい。
それだけで胸が一杯になると、Dは真上の女王ハチを睨み付ける。
「ここからは私達の反撃ですよ!」
「メラドラァ!」
珍しいDの号令。
それを知らない焔虎は呼応する。
女王ハチを睨みつけ、いざ反撃を開始する。
「行きます、虎さん。私に合わせてください!」
「トラァ?」
「お願いします。行きますよ、勝負は一瞬で付けます!」
フェスタのようなことを言った。
勝負は一瞬で蹴りを付ける。
そうしないとまた同じ目に遭う気がしたからで、これ以上バリアを引き伸ばすこともできない。
「お願いします。私を信じて、突撃してください!」
「……」
「お願いします!」
Dは思い切り頭を下げた。
すると焔虎は怪しんでいる。流石にDの言葉を信じきれないらしい。
やっぱり無理かな。そう思ったのも矢先、女王ハチは再び毒代わりの蜜を飛ばした。
「えっ!?」
バリアが少しずつ切れかけていた。
その隙間を縫うように、女王ハチはお尻の針を突き出していた。
少しだけ降下して、Dをわざと攻撃したのだ。
「キャッ!」
悲鳴を上げても遅かった。
〈運命の腕輪〉の効果は切れてしまっている。
目を瞑って顔を背けることしかできない中、毒は一向にDに触れることは無かった。
「あ、あれ? えっ!?」
Dが顔を上げると、目の前には焔虎が居た。
メラメラと炎が燃えている。
水が蒸発するようなジュワ音が聞こえると、Dは察した。
「メラトラァ」
「虎さん……」
如何やら焔虎が守ってくれたらしい。
猛る炎を武器にして、毒を焼き払ってくれた。
もうあんな陰湿な攻撃がごめんだと言いたいのか、Dのことを庇ってくれる。
「ありがとうございます。それじゃあ、行きますね!」
Dはペコリと丁寧なお辞儀をした。
信じてくれた焔虎に応えるべく、タイミングを見計らう。
それは丁度女王ハチが油断した瞬間。チャンスだと見越した瞬間だ。
ブー――――ン!
女王ハチが動いた。
上昇するにしても、下降するにしても、ここがチャンスだ。
Dは思いっきり腹から声を出し、焔虎に命じた。
「今です!」
「メラトラァ!」
Dの指示にピタリと合わせた。
地面を蹴り、炎の弾丸として突撃する。
もはや鉄砲玉で、鋭い牙と爪が、上空高い女王ハチに襲い掛かる。
「もちろんこの高さだと、また逃げられちゃいますよね。でも!」
このまま突撃しても、攻撃が当たる見込みは低い。
そんなのもちろん分かっていて、何も無策じゃない。
考えた先。Dは自分にできるアシストをする。
「今度は違います。【光属性魔法(小):フラッシュ】!」
右手を突き出し、Dは魔法スキルを発動した。
【光属性魔法(小)】。その威力は弱い。
けれど今回使うのはやはりフラッシュ。周囲を明るく照らすけれど、それだけが目的じゃなかった。
「閃光の世界……です!」
周囲一帯が先行に包まれる。
真っ白な世界が訪れると、視界が圧倒的に悪い。
もちろんDは目を細め、正直ハッキリと輪郭を捉えるのが難しかった。
「お願いします、虎さん!」
「メラトラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
何も見えないけれど、とにかくDは叫んだ。
焔虎の活躍に賭けることにしたのだ。
どんな結果になるかは分からない。何せ何も見えない。
それでも応援すると、焔虎は何かを捉えた。
「メラァッ!」
宙に跳んだ焔虎が下りて来た。
その姿は炎を纏ったまま。
スタッと地面に下り立つと、何故か顔色が清々しい。
「もしかして……」
ボトン!
空から何かが落ちて来た。
地面に落ちて来たのは、真っ黒に焼け焦げたリンゴ。
一際大きな胴体は、女王ハチだからだ。
「や、やった?」
Dは一瞬ポカンとしてしまった。
これはどうなったんだろう? もしかして勝てた?
瞬きをして状況が分からない中、焔虎がDを見ている。
つまり、Dが理解していなくてもそう言うことだった。
「や、やりました!」
「トラァァァァァ!」
Dと焔虎はお互いに喜び合った。
珍しくDは自発的に両腕を振り上げている。
焔虎も高らかに吠えると、女王ハチのアップルビーを無事に倒し、群れを全滅させたのだった。
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