第234話 女王、アップルビー
Dは焔の虎(※以下、焔虎)に問い掛けた。
しかし何も返してくれない。
ただ立ち止まったまま、メラメラと燃える炎を上げる。
風にそよぎ、炎が揺らめく。
今にも周りの木々に引火してしまいそう。
けれどそんなことは無く、地面や草木に触れる前に、パッと消えた。
「もしかしてあの炎は、あのトラの体の一部みたいなものなんですか?」
メラメラと燃える炎の正体。
もちろんあくまでも仮説でしかないが、Dにはそう見えた。
けれど今は関係が無く、もっと大事なこと。それはコミュニケーションを取り、自分が敵でないことをアピールし、次は何をすればいいのか、考えることだった。
「あ、あの……ん!?」
Dは改めて声を掛けた。
けれどそれを引き留めたのは、Dの持つスキルだ。
【気配察知】が発動すると、ビシバシと嫌な感覚が突き刺した。
「この気配……あれ?」
焔虎も何かを怪しんでいた。
視線を上に上げると、睨み付けている。
Dも気になって視線の先を追い掛けると、そこに居たのはモンスターだった。
「アレって、アップルビー? だけど少し大きいような」
ブー――――ン! ブー――――ン!
宙に浮かんでいたのはアップルビーだった。
それにしては、他のアップルビーとは一線を画す大きさ。
しかみ頭上高くに飛んでいて、完全に安全圏に居た。
「もしかして、あのアップルビーを倒さないとダメってことですか?」
焔虎は睨み付けたまま動かない。
如何して攻撃しないのかは分からなけれど、例のアップルビーを倒さないとダメらしい。
「そうなんですか?」
「(コクリ)メラトラァ!」
Dは焔虎に訊ねた。
すると焔虎はクルンと回り、Dに頷き返した。
しかも「メラトラァ」なんて……何だかキャラ付けのようだった。
「頷いた……それじゃあ、私の言葉を理解しているってことですか!?」
焔虎はDの言葉をシッカリと聞き取って理解している。
高いINT(知力)が備わっている証拠で、Dの中でモヤモヤしていたものが形を成す。
明らかに意思疎通ができていて、普通にモンスターとは思えない。
「やっぱり、プレイヤーなんじゃ……」
Dは焔虎の正体がプレイヤーなのではと怪しんだ。
けれど今はそれを言ってる暇は無い。
答えなんて教えてくれないので、Dは真上のアップルビーに視線を飛ばす。
「今はあのアップルビーですよね? それにしても、変な動きをしていますね」
頭上のアップルビーはおかしな行動を取っていた。
何故かグルグルと八の字に回っている。
ハチが八の字……は関係無いとして、Dはアップルビーの大きさが気になる。
「もしかして、女王ハチ?」
「メラトラァ!」
焔虎はDの呼び掛けに応じた。
如何やら当たっているらしい。
つまりあの行動は、何かしらの合図。
それでも他のハチ達が追従しないのは、全て焔虎が焼き払ってしまったからだ。
「もしかして、見えていたんですか?」
「メラトラァ……」
焔虎はやけに視野が広かった。
平面ではなく、立体的に物事を捉えている証拠だ。
Dは虎にハッとさせられると、胸を押さえる。情けない自分がいたが、今は構っていられない。
「それじゃあ、あのハチを倒せば……終わりってことですね!」
Dはパンと手のひらを合わせた。
焔虎もコクリと頷いてくれた。
女王を失えば、新しい女王が生まれるまで、ハチは命令を受けられない。
活動に制限を掛けられると、そのまま息絶える。もちろん、残りは女王ハチ一匹だけなので関係無かった。
「でもどうしたら……えっ?」
流石にあんな高い位置に居るので、Dの攻撃は届かない。
もちろんバリアを解けば解決するかもしれない。
Dには【投擲】のスキルがあるからだ。
けれどそんな暇は無かった。
他のハチ達が追従しないことに痺れを切らしたのか、珍しい行動を取る。
翅をバサバサ動かすと、一際大きな体を活かして攻撃を仕掛ける。
「き、来ました!?」
Dは叫んだ。けれど攻撃できない。
そんな中、焔虎は地面を蹴る。
高く跳び上がると、炎の牙を剥き出して、アップルビー(以下、女王ハチ)を噛み喰らおうとする。
「メラトラァ!」
しかし巨体を活かした威圧も効かなかった。
一際他のアップルビーとは並外れた知性があるのか、焔虎が攻撃を仕掛けると、その場で停止。
ホバリングを決めると、安全圏で立ち止まる。
「止まった!?」
「メラトラァッ!?」
Dも焔虎も予想外だった。
声を上げて慄くと、焔虎の攻撃は届かない。
空ぶってしまうと、成す術なく地面に落ちていく。
そんな無防備な焔虎相手に、女王ハチは攻撃を仕掛ける。
お尻の小さな針を飛ばすと、黄色い汁が飛んだ。それを浴びた焔虎は突然顔を押さえて悶える。
「メラトララァァァァァァァァァァ!」
焔虎は苦しんでいた。
地面を転がって顔を押さえている。
女王ハチの果汁が顔に掛かり、あまりの強烈な匂いに苦しみ悶えていた。
「ど、どうしたんですか。なにが……うっ!」
Dはバリアの中から見ていた。
一体何が起こったのかは分からない。
けれど焔虎が苦しんでいる姿を視界に収めると、バリアを貫通して、匂いが漂う。
「これって、リンゴの匂い……にしては甘すぎる。気持ち悪い」
尋常ではない甘い香りが漂っていた。
Dは冷静にリンゴの匂いだと分かった。
けれど他のアップルビーとは比べ物にならない。
破壊的なまでの濃い匂いが充満すると、もはや甘さによる凶器。
Dも焔虎もこの匂いに脅かされると、力を失った。
「うっ、こんなの……聞いてないですよ」
Dは指先から力が抜けてしまった。
地面に座り込むと、そのまま動かなくなってしまう。
それでもバリアだけは絶えず展開されていて、中に居るDを守る。
それでもバリアには制限時間がある。
残りは五分も無いだろう。
N:ブルから聞いていた話とは全然違い、Dは意識を飛ばしそうになっていた。
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