第232話 VSアップルビー
なんか美味しいそう。
Dは一人でダンジョンにやって来た。
アップルハフルと言う、緑豊かなダンジョン。
フォンスからは大体三十キロ程だろうか? Dは馬車に乗り、一人でやって来るも、心細かった。
「本当に来ちゃいましたけど……大丈夫かな?」
自分で自分が不安になった。
けれど来てしまった以上関係無い。
とりあえず転移装置に触れて登録しておくと、Dは森の中を歩いて回る。
「アップルビー、早く見つかって欲しいですけど」
Dは視線を右往左往させた。
見た所、ハチっぽいモンスターの姿は無い。
それになにより、リンゴが宙に浮いていたら、誰だって気が付く筈だ。
「それにしても、このダンジョン。面白いですね」
Dは不安混じりではあるけれど、柔らかい笑みを浮かべた。
アップルハフルが思っていた以上に面白いダンジョンだった。
見回すと、リンゴの木が生えており、何個ものリンゴが生っている。
「可愛いです」
アップルハフルにはたくさんのリンゴの木が生えていた。
森と言うよりもリンゴの林。
実際にリンゴ狩りに言ったことは無いけれど、Dの頭の中でイメージできた。
「もしかして、だからアップルハフルなんですか?」
Dはようやく気が付いた。
一応調べてはみたけれど、本当にリンゴがたくさん生っている。
だからこそのアップルハフル。正直、ハフルの意味は無いけれど、色んな意味で可愛らしい。
「擬態もできそうですよね……あれ?」
ふとDはリンゴを見て回った。
すると一つだけおかしなリンゴを見つけた。
何故かプルプル動いていて、目を凝らしてみると、昆虫の翅のようなものがはためいている。
「えっ、私の気のせい……ですか?」
目元を擦ってみた。
きっと気のせいだと思った。
けれどそんなことは無く、本当に翅が動いていた。
「やっぱり、翅が動いてます!?」
透明で非常に分かり辛いが、翅が生えている。
それが高速で動くと、空中でホバリングしていた。
大変そうで、必死に他のリンゴに擬態をしている。
間違いない。アレこそ、Dの目当てのモンスターだ。
「アレがアップルビーですか。なんだか……丸いですね」
Dの視線の先。そこにはアップルビーが居た。
ようやく見つけたアップルビーは、本当にリンゴのよう。
丸々とした姿に太陽のように赤い色合い。そこから小さく頭や脚が出ていて、透明度の高い翅がパタパタと忙しなく動いている。
小さいが針のようなものもお尻にあり、想像以上にリンゴに近い姿をしていた。
「それにしても、一体なにをして……花?」
Dはアップルビーが何をしているのかよく観察した。
するとリンゴの木の傍。そこには白い五枚の花弁の花が咲いていた。
リンゴの花のようで、アップルビーは、リンゴの花の蜜を吸っていた。
「もしかして、アップルビーはリンゴの花の蜜を集めているんですか?」
Dはすぐに気が付いた。
アップルビーはその生態から、ミツバチによく似ている。
口から出るストローのような器官を使い、花の蜜を吸う。その中でもリンゴの花の蜜を好んでいて、蓄えた蜜によって、より一層甘くなる。
だからこそアップルビー。リンゴの見た目をした、リンゴのように甘いハチだ。
「なんだか一生懸命で、捕まえるのが可愛そうです」
Dは優しかった。優し過ぎた。
いつもはグリム達と一つの目的を共有している。
その目的の達成のために動くから、仕方が無いと割り切れるけれど、自分一人だと、なんだか心細くて仕方が無い。そのせいか、捕獲の依頼も投げ出してしまいたくなる。
「でも、依頼を達成しないと……どうしたらいいんですか!」
Dは何が正解か、何をしたらいいのか、自分で分からなくなった。
N:ブルからも失望されたらと思うと、心がパニックになる。
頭を押さえてジタバタすると、アップルビーは脇目もくれず、飛び去った。
「あっ、待ってください!」
Dは急いで追いかける。
アップルビーは、リンゴの形と色をしているからもの凄く目立つ。
簡単に目で追い掛けることができると、飛ぶのも遅いからか、すぐに追い付いた。
「何処に向かっているんでしょうか?」
アップルビーの後を追い掛けるD。
草木を掻き分け、必死にアップルビーの姿を視界に収める。
そうして薮を抜けていくと、陽射しが急にDを射た。
「ううっ、眩しいですね」
辿り着いた先は少し開けた場所。
その奥には、他のリンゴの木とは一線を画す大樹。
周りには他にリンゴの木は全く無く、ただ一本だけ、アップルビーはその木に向かって飛んでいた。
「アレは……もしかして巣ですか!」
もしかしなくても巣だった。
けれど一本の木を全て使った巨大な巣で、たくさんのリンゴが生っている。
アップルハフル最大級のリンゴの木……のように見えたが、そんなことは無かった。
「ええっ、ぜ、全部アップルビーなんですか!? き、気持ちが悪いです……」
木に生っていたリンゴの正体。
その全てはリンゴに擬態しているアップルビーの群れ。
鳥肌が立ってしまい、その場で立ち尽くしてしまうと、全身に嫌な感じがした。
【気配察知】のスキルが発動し、Dは自分がアップルビーの群れの中に居ることを思い出す。
「そう言えばN:ブルさんは、アップルビーは危険なモンスターじゃないと言ってましたけど、襲って来ないとは言ってませんでした……よね?」
あくまでも言葉の受け取り方の問題。
そう思っていたが、決して比喩的なものではない。
DはN:ブルから聞いた言葉の解釈を変えてみると、この嫌な感覚をハッキリと知覚する。
ブーン! ブーーーーーン!! ブー―――――――――ン!!!
けたたましい騒音が空気を震わした。
一本の巨大な木に生っていた赤いリンゴが一斉にはばたく。
如何やら木の傍までやって来た何もしていないDに対し、敵意を露わにしている。
巣に近付いただけで、防衛本能が働いたのだ。
「や、やっぱりそうなるんですか!?」
もはや戦闘は避けられなかった。
素早くDは〈運命の腕輪〉に手を掛けた。
戦輪状態にしてシッカリと握ると、大量に襲い掛かるアップルビーを一人で相手にすることになった。
正直戦いたくは無かった。
けれどやるしかないと、自分を奮起させる。
魔法も駆使して応戦することに決め、もはや構っていられなくなると、Dは叫ぶのだった。
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