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第229話 シRキーの声を聴いて

ここでようやく本当の名前が明らかに。

『と・う・そ』


 ミュージュの前にティーカップが置かれる。

 香りのいい紅茶の匂い。

 ミュージュは指を掛けてティーカップを手にすると、一口啜った。


「苦みがあるけど、いいわね」

『あ・り・か・と・う・こ・さ・い・ま・す』


 ミュージュは紅茶の感想をストレートに伝える。

 シルキーは嬉しそうで、カタンとトレイが揺れた。


「いい紅茶ね。こんなの毎日飲んでるの?」

「毎日じゃないよ」

「まぁそうよね……うん、紅茶らしいわ」


 ミュージュは紅茶が似合う。

 下手にコーヒーよりも画になった。

 自然と目が移り、グリムも黄昏ていると、フェスタがコートを摘まんだ。


「ねぇグリムー。そろそろ試そうよー」

「ん? そうだね」


 フェスタに急かされると、インベントリからアイテムを取り出す。

 ミソカツに作って貰ったアイテムだ。

 変換装置をテーブルの上に置くと、ミュージュが顔を近付ける。


「へぇー、完成したのね」

「うん。そう言えばミュージュは現物を見るのは初めてだっけ?」

「ええ。昔のラジオみたいね」


 確かに今思えばラジオの方が近いかもしれない。

 忘れていた知識を引き出しから引っ張り出すと、髪の上をコインが滑る。


『あ・の・み・な・さ・ん・こ・ち・ら・は?』

「変換装置だよー」

『へ・ん・か・ん……な・ん・て・す・か?』


 シルキーは知る由も無かった。

 何せ今日まで秘密にしていたのだ。


「コレを使えば、もっとシルキーとお話ができるよー」

『お・は・な・し・て・し・た・ら・い・ま・も・て・き・て・い・ま・す・か?』

「もっと楽にだよー。ほらー、なにか喋ってみてよー」


 フェスタはシルキーを急かした。

 するとコインが円を描き、何が何やら分かっていない。


「シルキー、この装置はシルキーの発した音を、モールス信号と言葉に変換してくれる装置なんだよ」

『ほ・ん・と・う・て・す・か?』

「本当だよ。試してみてくれるかな?」

『わ・か・り・ま・し・た。や・つ・て・み・ま・す・ね』

「そうそう。ドンドンやろー」


 フェスタはシルキーの背中を押す。

 もちろん実際に触れることもできなければ、姿を見ることもできない。

 壁を伝って音が走ると、変換装置の前に来たらしい。



 ・-・―― ・・ -・・・ ・- -・-・・ -・・- ―――・-



 モールス信号で合図を送ると、早速シルキーは試してみる。

 とりあえずまずは聞こえているかチェックだ。

 同時にグリム達にとっては成果を見させてもらう。


「皆サン、聞 コエマスカ?」


 変換装置を介して聞こえて来たのは間違いない声。

 言葉を一字一句正確に読み取ると、ラッパ型のスピーカーから聴こえる。


「うん、聞こえるよ?」

「そうですね、聞こえます……本当に聞こえます!」

「凄い精度ね。驚いたわ」


 グリム達は固まってしまった。

 ハッキリと聞こえたのはコインが紙を統べる音じゃない。

 少女の発した声だった。


「あはは、凄いー。コレ、本物だー」


 フェスタはシンプルかつ簡潔な感想を吐き出す。

 本物。偽物があるのかは分からないが、目を疑う装置ではあった。


「コレが魔道具の力。うわぁ、鳥肌が立つよ」

「そうね。初見の反応だけど、こんなバカみたないことできるのね」


 バカは余計な一言だったが、確かに異次元の代物だ。

 鳥肌がえげつないほど立ってしまう。

 これは身震いしない方がおかしい。


「ア、アノ、ドウカサレマシタカ?」

「いや、どうもしないよ」

「はい。ですが少し止まりますね」

「変換が上手く行ってないのかもね。でも、これだけ出来たら充分だよ」


 如何やら変換も完璧じゃないらしい。

 所々たどたどしくなり、言葉が完璧じゃない。

 ひらがなとカタカナが混じっているような感覚で、特に気にはならないが、違和感にはなった。とは言え、そんな物は置いておく。単純にこれはヤバすぎた。


「これは感謝してもしきれないな」

「なに言ってるのよ。素材を集めて来たのは私達よ?」

「そうだとしてもね……凄いな」


 もうそれ以上の言葉が見つからない。

 グリム達は惚れ惚れしてしまうと、シルキーが話し出す。


「皆サン、ドウシテコノヨウナ物ヲ」

「シルキーのためにと思ってね」

「私ノタメニデスカ?」

「そうだよ。これでもっとシルキーと話しができるからね」


 シルキーはこんな凄い物を持ってくるとは思っていなかった。

 そのせいか、理由を訊ねられる。当然の疑問だ。

 だからこそグリム達は真っ直ぐに答える。

 するとシルキーは心が一杯になり、スピーカーを通じて感謝する。


「皆サン、アリガトウゴザイマス」

「いいよ、感謝するのはこっちなんだからさー」

「そうだね。これからもよろしくね、シルキー」


 感謝するのはグリム達もだ。

 お互いに下手によそよそしいことはしない。

 真面目にプレゼントを贈ると、これからもと誓った。


「ハイ。シRキー・ドーンライト、コレカラモ皆サント共ニ」

「こちらこそ、よろしくね、シRキー……ん?」

「「「よろしく」ねー」お願いします」


 グリムに続いて三人の声も重ね合わさった。

 ペコリと頭を下げると、お互いにそんなことをしなくてもいい仲だった。

 だからだろうか。グリムはスッと顔が締まる。


「まぁ、なにはともあれ……」

「そうですね。これで」


 色んな意味でここまでバラバラだったパズルのピースが一つになる。

 その実感を噛み締めると、ミソカツの作ってくれた装置を撫でる。

 本当に凄すぎる魔道具だ。


「だけど、こうして会話ができるようになってよかったよ」

「だよね。シRキー、喋るの楽しい?」

「モチロンデス。皆サントコウシテオ話シガデキルコトガ、何ヨリモ信ジラレマセン」


 確かに信じがたいことなのはよく分かる。

 実際、こんな小さな装置一つで会話が足り経っている。

 どれだけの凄い技術なのか。少し構造を変えて技術を革新させれば、現実でも使えるのではないだろうか? と、オーナーとしての意識がグリムに働く。


「でもよかったわね。話ができて」

「そうだね。頑張った甲斐があったよ」


 目的が一つ果たされた。

 これがどれだけ大変だったか。どれだけ苦労したのか。身に染みる。

 けれど達成感はやはりあり、ギュッと拳の中に収まらない。


「これもみんなのおかげだよ。ありがとう」

「皆サン、私ノタメニシテクダサリ、アリガトウゴザイマシタ」


 未だに姿が見えないものの、シRキーの声だけが聞こえる。

 グリムとシRキーが代表して頭を下げると、何だか照れくさそうな顔がある。


「ちょっと止めてよね」

「ミュージュ?」

「別に誰かのためって訳じゃないでしょ? 結果的にはこうなったけど、それぞれの行動の結果。それがこれよ。分かるわよね?」


 ミュージュは答えの部分だけ曖昧になった。

 けれどミュージュの性格なら分かる。

 言いたいこともある程度伝わるが、Dは首を捻った。


「えっと、つまりは……」

「結果オーライってことだね」

「そう言うことよ」


 ミュージュの代わりにグリムが引き継ぐ。

 全ては結果論だ。結果オーライ。それ以外に何も無い。

 抱く様な不信感不義理感は無く、寧ろ抱く方が野暮だった。


「まあそう言うことにしておこうかな」


 きっと気恥ずかしいに違いない。

 グリムはミュージュの顔色を窺うと、そう言うことにして置いた。

 空気が一瞬で和み、何やら雰囲気も整う。


(とは言え……)


 ただ一つ分かった事実。

 それは今まで間違い続けてきた発音。


 まさかのシルキーじゃなくてシRキーだった。

 流石にそれは文字だけじゃ分からない。

 凄い失礼だったと今更痛感する。


「ごめん、シRキー。今まで発音間違っていたよ」


 グリムは代表して謝った。

 けれどシRキーにとっては些細な問題だったらしい。

 そこまで深く気にしていないのか、すぐに許してくれる。


「構イマセンヨ、グリムサン。私ハ気ニシテイマセンカラ」

「それならいいんだけど……」


 言葉ではなんとも言える。

 けれどシRキーは丁寧で、私達を許してくれた。

 だからこれ以上は気にしないことにする。


「でも会話ができてなによりだよ」

「ですね。シRキーさん、これからもよろしくお願いします」

「お願い―」

「まぁ、よろしくね」


 私達は改めて仲間の一人であるシRキーに頼んだ。

 するとシRキーは友好的に接してくれる。


「コチラコソヨロシクオ願イシマス、皆サン」


 AIが搭載されたNPCであったとしてもグリム達にとっては掛け替えのない仲間だ。

 その実感を改めて再確認した。

 グリム達はシRキーと確実な絆を確かめ合った。

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