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第228話 音楽の妖精さん

 山間の洋館。そこをギルドホームにする〈《アルカナ》〉の面々。

 いつも通り指定席に座り、リビングでくつろいでいる。


『こ・う・ち・や・て・す、と・う・そ』


 そんな中、突如としてティーカップがテーブルの上に置かれた。

 姿は見えない。ティーカップとポットだけが宙に浮かぶ。

 これぞポルターガイストだ。


「ありがとう、シルキー」

「(ふぅ―ふぅー)温かいねー」

「そうですよね。外は温かいですけど」


 運んでくれたのはこの屋敷の本当の主人、シルキー。

 今日も庭で採れた茶葉を使って紅茶を振舞ってくれる。

 湯気が立っており、少し冷ますことにした。その素振りと口振りを受け、シルキーは危惧する。


『あ・い・す・の・ほ・う・か・よ・か・つ・た・て・し・よ・う・か?』


 不安になったシルキーは申し訳なさそうにコインを動かす。

 こっくりさん式会話方が確立され、こうして会話が成り立っている。


「そんなこと無いよ。……うん、美味しい」


 グリムは紅茶を一口啜る。

 少し熱いのは仕方が無いが、かなり味は良い。

 紅茶ならではの奥深い苦みが、口の中一杯に広がる。


「所でさ、グリム。今日はなにかあるの?」

「なにかって?」

「だって、外に出ないじゃんかー。遊びに行こうよー」


 フェスタはとてもシンプルな理由を吐き出す。

 確かにいつもならダンジョンに言っている筈だ。

 しかし今日はギルドホームで待機。暇を持て余している。


「子供みたいなこと言うね、フェスタ」

「ふふふっ、子供の心を忘れちゃダメだよー」

「それも大切なことだね。だけど今日はパスかな」

「どうしてでしょうか、グリムさん?」


 グリムはフェスタのそんな所が可愛かった。

 笑みを浮かべてフェスタの提案を弾く。

 もちろん揶揄したわけではないのだが、流石にDも不振を抱く。


「Dも外に行きたいの?」

「そうでは無くてですね、誰かを待っているような……もしかしてですけど!」

『た・れ・か・こ・ら・れ・る・の・て・し・よ・う・か?』


 Dに反応してフェスタは気が付く。ピコンと頭の上に電球が灯る。

 同時にシルキーは首を捻った。

 それも仕方が無い。何せ一度しか説明していないからだ。


「そうだよ。私達の新しい仲間がね」

『あ・た・ら・し・い・か・た・て・す・か!? そ・う・い・え・は、お・つ・し・や・つ・て・い・ま・し・た・ね。た・し・か、お・な・ま・え・は……』


 シルキーが名前を思い出そうとする。

 すると突然玄関の方からホーンが鳴った。

 リビング内にもパイプを伝って音で知らせると、グリム達はすぐに気が付く。

 こんな場所まで足を運ぶもの好き、そうそういないからだ。


「来たみたいだね」

「それじゃあみんなで迎えよー」

「は、はい。すぐに行きます」


 グリム達は集団で出迎えに向かった。

 Dはコインとこっくりさん用の紙を手にする。

 全員で玄関まで向かうと、フェスタが飛び出して扉を開けた。


「ドーン! うおっ?」

「ビックリするじゃない。止めてよね」


 そう言いつつまるで驚いていない。

 そこに現れた少女。

 グリム達と同じで呪いの装備、しかも大アルカナを背負った、頼もしい〈女教皇〉だ。


「やぁ、来たね。ミュージュ」

「来たわよ。にしてもここ、階段多過ぎよ」


 確かにそれは愚痴ってもいい。

 一応バリアフリーにはなっているけれど、それでも長い。

 勾配もあり、階段の段も多く、非常に疲れる。


「それはそうだね。でも、疲れているようには見えないけど?」

「伊達に鍛えて無いわよ。ピアノも結構体力いるのよ?」


 けれどミュージュはそれなりに鍛えていた。

 ピアニストも大変だなとグリムは思う。


「それは初耳だね。それよりここまで来たってことは、決まったってことだよね?」

「ええ、そうでもしないと、こんななにも無い所には来ないわ」


 確かにここまでは一本道だ。

 本当に珍しい客人に、全員同感する。

 同時にここに足を運んだ理由も確定した。

 誰よりも喜んだのはまさかのシルキーだった。


『あ・な・た・か・み・ゆ・う・し・ゆ・さ・ん・え・す・ね。は・し・め・ま・し・て・し・る・き・い・と・い・い・ま・す』

「……ん?」

「どうしたの、ミュージュ?」


 ミュージュは固まってしまった。

 Dが手にした紙の上をコインが滑る。

 落とさないようにピンと張っているのだが、ミュージュは瞬きもしない。


「なんでコインが動いてるのよ? しかもこれってこっくり……」

「そうだよ。シルキーは幽霊なんだ」

「へ、へぇー、そうなのね、幽霊……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 当然の反応をしてくれた。

 お手本のような驚き方に逆に感心する。

 けれど初見だとこうなるか無言になるかで、ミュージュは間違ってない。

 間違ってはいないのだが、少し失礼ではある。


「まぁそうなるよね」

「そうなるよねじゃないわよ。ああ、ちょっと訳が分からないわ。ってことはここ事故物件ってこと? マジで言ってるの?」

『う・つ、す・み・ま・せ・ん』


 シルキーが気にしたらも元も子もない。

 ここはミュージュにちゃんと説明することにした。

 一体何があったのか。簡潔ではあるが分かりやすく応対すると、ミュージュはパニックになっていたが、少しずつ冷静になり言葉を噛み砕く。


「はぁ、なんだか不思議な話しね」

「不思議な話だよ」


 一旦冷静さを取り戻したミュージュは頭を抱えた。

 それは当然、屋敷に幽霊が住み付いているなんて知らない。

 もちろん、グリム達が間借りしているのだが、どちらにせよ同じだ。


「シルキーだっけ、さっきは驚いたりしてごめんなさいね」

『い・え・か・ま・い・ま・せ・ん・よ』

「会話できるのね。ありがと、それで……」


 ミュージュは礼儀正しくシルキーに謝った。

 驚いたことを非礼するが、シルキーは寛容。

 当たり前のことだと許してくれる。


 これで一息つける。かと思いきやミュージュは視線を逸らす。

 グリム達の顔色を窺うと、恥ずかしそうに呟く。


「はぁ……私はもう仲間なのよね?」

「そうだね。そう言うことになるね」

「そう……精々私を楽しませてよね?」

「あはは、それはミュージュが見つけないとね」


 ミュージュはとにかく可愛い程ツンツンしていた。

 何かを認め・認めない。そんな歪さがある。

 けれど研磨されるのはこれからだ。もちろんミュージュ自身の手によってと、詩人の様な事をグリムは抱いた。


「ってことで、これからよろしくね、ミュージュ」

「はいはい、そんなのいいから、早く入れて」

「そうだね。どうぞ」


 玄関でずっと話し込むのもおかしな話だ。

 ミュージュを中に通すと、嫌な感じはしない。

 如何やら正式に受け入れてくれたらしく、ミュージュはグリム達の仲間になった。

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